ガソリンエンジンは自動車やバイクの主動力源として幅広く活用されているエンジンですが、動力源はいろいろあるのにどうしてガソリンエンジンがこんなに使われているか理由をご存じですか?

今回はガソリンエンジンのことについて色々ご説明していきましょう。

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ガソリンエンジンとは

ガソリンエンジン

ガソリンエンジンはガソリンを燃料にして動くエンジンの総称なのですが、一般にはガソリン燃料の内燃機関のみを指します。(外燃機関は除外)

内燃機関のガソリンエンジンは大きく分けて2種類あり、ピストンの往復運動を行うレシプロエンジン形式と、三角形のローターの回転運動で動力を発生させるロータリーエンジンがあります。

このエンジン形式の特徴などは別の記事でご説明しますが、今回はガソリンエンジン全般についての特徴や構造などをご説明しましょう。

ガソリンエンジンのサイクル

ガソリンエンジンの元祖であるガスエンジンをはじめて開発したのはフランス人のルノアールですが、それを実用的な内燃機関へと進化させたのがドイツ人のオットーで、ガソリンエンジンのサイクルをオットーサイクルと呼んでいます。

サイクルとはエンジンの圧縮や爆発などの行程を周期的に行うもので、エンジンの基本的な動作を決定するものです。

このサイクルによってエンジンの基本的な特性や理想的な熱効率、仕事量などが決まるのです。

基本的には次の4つがオットーサイクルと呼ばれます。

  1. 混合ガスの圧縮
  2. 点火・燃焼
  3. 燃焼ガスの膨張
  4. 排気・吸気

オットーサイクルでの熱効率は理想的でも30%程度が限界で、実際のエンジンではもっと低くなります。

つまりガソリンの持つエネルギーのわずか3割しか動力に変換できず、残りは熱や摩擦のエネルギーとして無駄に捨てられています。

しかしガソリンエンジンのサイクルはオットーサイクルだけではなく、オットーサイクルをベースとして吸排気のタイミングをずらしたりするチューニングしたり、摩擦の低減などでによって、無駄になっていた熱効率を改善することが可能です。

またオットーサイクルを基礎とした別のサイクルもガソリンエンジンには採用されており、トヨタのハイブリッドカーのエンジンに使われるアトキンソンサイクルや、マツダのガソリンエンジンが代表格のミラーサイクルなどがあります。

今回はこれらのサイクルについては詳しく説明しませんが、ガソリンエンジン全般は基本的にはオットーサイクルで稼働するエンジンなのです。

ガソリンエンジンの空燃比

ガソリンを燃料として燃やすには空気との混合が不可欠で、燃料と空気が混ざった状態を混合気と呼びます。

ガソリンをはじめとした石油系燃料は燃料が完全燃焼するため空気量が決まっており、その比率のことを「理論空燃費」といいますが、ガソリンの場合は14.7、つまり燃料1に対して空気が14.7の混合気が理論空燃比の状態です。

この状態をストイキオメトリー(ストイキ)とも呼んでおり、理論空燃比の状態で燃焼することをストイキ燃焼、それより燃料が濃い状態をリッチ燃焼、薄い状態をリーン燃焼とそれぞれ呼びます。

ストイキ燃焼は理論上で完全に燃える比率なのですが、実際のエンジンにおいてはストイキ燃焼が使われることはほぼなく、車の使い方においてリッチ燃焼かリーン燃焼どちらかに振られます。

ストイキ燃焼はあくまで理想的な燃焼状態でのことなので、実際のエンジンでは燃焼が終了する前に排気バルブが開いてしまい、排気ガスの未燃焼ガスが燃えるアフターファイヤを引き起こします。

リッチ燃焼の場合は燃料が多くて燃焼が早く進むため、排気ガスとして流れるときには空気を使い果たして燃焼が終了し、アフターファイヤーを抑制できます。

また排気ガス中に残った燃料の気化潜熱でシリンダー内部やバルブの冷却も可能で、ストイキ燃焼より実用的な燃焼方式です。

燃焼が早いので高出力を出すことにも向いており、現代のエンジンでは車の状態によってリッチバーンをストイキまでの領域で調整し、加速時や定常運転時の状態をコントロールしています。

しかしリッチ燃焼ではどうしても燃料を無駄に消費するわけで、それを改善するのにリーン燃焼がトレンドとなった時期がありました。

1990年ごろまではリーン燃焼を積極的に取り入れて、エンジン出力は控えめですが燃費の向上には一定の効果を得ました。

しかしながらリーン燃焼では排気ガスに多量の酸素が残ることで排気ガス浄化の触媒の働きを阻害するという欠点があり、排気ガス規制の高まりと共にリーン燃焼は一時姿を消しています。

ガソリンエンジンの特徴的な構造

プラグ

オットーサイクルにてエンジンを構成する上で不可欠な構造がいくつかありますが、それは燃料の噴霧機構、スロットル、点火装置の3つです。

この構造を一つ一つご説明します。

燃料の噴霧機構

液体燃料であるガソリンを空気と混合させて混合気を作るためには、ガソリンを一度気化させる必要があります。

そのために必要なのが燃料の噴霧装置です。

かつてはガソリンの気化にはキャブレターと(気化器)いう部品が使われており、気化しやすいガソリンの特性を使って混合気を作っていました。

ガソリンが溜まった空間と空気の通り道を細い管で繋ぐことで、ストローでジュースを水出すようにして勢いよく空気中にガソリンを噴霧します。

キャブレターは構造が非常にシンプルでコストも安いので、自動車に採用されなくなったあとでもバイクでは主流の方式です。

しかしキャブレターでは細かな燃料量の調節ができず、最初に設定した噴霧量がなにより重要です。

その設定が狂ったり吸気管内の状態が変わったりするととたんに状態が変わってしまい、空燃比に影響を及ぼしてしまいます。

そこで主流となっているのが電子制御燃料噴射装置(EFI)というもので、燃料ポンプから送られてきた高圧の燃料を電子制御で開閉する弁によって噴出量をコントロールする部品です。

これにより常に最適な燃料噴射量を実現することができ、運転状態や排気ガスの状態によっても燃料量を調節できます。

キャブレターよりコストはかかるものの排気ガス規制の強化によって電子制御化は必須であり、ほぼすべてのガソリン自動車に採用されるまでになっています。

またバイクの世界でもEFIの採用が進んでおり、ホンダがいち早く取り入れたことでも有名です。

スロットル

スロットルはエンジンへの空気の流入量をコントロールする部品で、ガソリンエンジンではアクセルペダルと連動する部分でもあります。

ガソリンエンジンの空燃比は基本的に空気の量でコントロールするものであり、前述のキャブレターで燃料量を一定にしておいて、空気の量を変えることで調整をしています。

その調整を行うのがスロットルで、バタフライと呼ばれる弁の開け閉めで空気流量を変化させます。

当初はこの弁がアクセルペダルとワイヤーで繋がっており、アクセルを踏めばスロットルが開いてエンジンの出力が上がるわけです。

このスロットルも長年機械式が主流でしたが、近年は電子制御スロットルが一般的になってきており空気流量も微細にコントロールすることが可能になっています。

燃料噴射装置と同じく排気ガス規制に対応するためには、スロットルの電子制御化も必要なのですが、スロットルとアクセルペダルが直結しなくなったためコントロールはエンジンのコンピューターが行っています。

アクセルペダルの踏み具合をセンサーで検知してそれに合わせたスロットルコントロールをするのですが、運転条件によってはアクセルが踏まれてもスロットルをあまり開かないなどの制御も可能で、燃費や環境性能への対応には不可欠な技術です。

燃料量も電子制御化で細かくコントロールできるようになったので、エンジンの空燃比コントロールはかなり微細な部分までコンピューター制御が可能となっています。

ただ運転感覚としてはアクセルを踏んでいるのに車が思ったより走らない、といったことも起こっており、ダイレクト感に欠けるといった声もあります。

点火機構

エンジンに送られてきた混合気を爆発させるためには何かしら火種が必要で、ガソリンエンジンでは電気火花を発生させるスパークプラグが用いられます。

スパークプラグはシリンダーの燃焼室ひとつにつき一つづつ設定される部品で、バッテリーから送られた電気を使って電気火花を産み出します。

バッテリーの電圧は12Vと低いので、スパークプラグに伝わるまでの間にイグニッションコイルという電圧上昇装置が入り、ここで一気に1万V~3万Vという高電圧になり、それをスパークプラグで放電させることで電気火花を発生させて点火させるわけですね。

イグニッションコイルはガソリンエンジンの点火タイミングもコントロールする箇所で、かつてはディストリビューターと呼ばれる回転式接点を持つ機械で接点を回転させながら各シリンダーへの配電を行っていました。

しかし現在ではイグニッションコイル自体が電子制御化され、スパークプラグ1つにつき電制イグニッションコイルを1つづつもうけることでコンピューターからの指令によって点火タイミングをコントロールします。

これにより最適な状態での点火が実現でき、燃費の向上や排気ガス制御には必須の技術となっています。

その他の構成部品

ガソリンエンジンに特徴的な構成部品は前述の3つですが、当然エンジンを構成する部品はこれ以外にもたくさんあります。

基本的にはレシプロエンジンの構成部品たちがほとんどで、ガソリンエンジンだけでなくディーゼルエンジンでも使われる部品です。

今回は一つ一つの説明は省きますが、ガソリンエンジンで主要な部品を並べてみました。

部品名称 役割
エンジン
本体
シリンダーブロック シリンダーを構成するエンジン本体
シリンダーヘッド シリンダー上部の燃焼室部分+動弁系収納部
ピストン レシプロエンジンの動力源
コンロッド ピストンの動きをクランクシャフトへ伝える
クランクシャフト エンジンの回転を出力するシャフト
動弁系 吸、排気バルブ 燃焼室への混合気、排気ガスの導入排出を
コントロールする弁
カムシャフト バルブタイミングのコントロール
タイミングベルト
(OHCの場合)
クランクシャフトとカムシャフトの動きを
連動させるベルト
潤滑系 オイルポンプ エンジンオイルの圧送
オイルパン エンジンオイルの保持タンク
オイルフィルター エンジンオイル浄化装置
冷却系 ウォーターポンプ エンジンクーラントの圧送
ラジエーター エンジンクーラントの冷却
サーモスタット エンジン始動時の水温上昇
燃料系 燃料噴射装置 ガソリン噴霧装置
燃料ポンプ ガソリンの圧送
点火系 スパークプラグ 混合気への火花点火
イグニッション
コイル
スパークプラグ用高電圧発生+
点火タイミングコントロール
吸気系 インテーク
マニフォールド
吸気管
エアクリーナー 吸入空気の浄化
スロットル 吸入空気量の調整
排気系 エキゾースト
マニフォールド
排気管
排気ガス触媒 排気ガス浄化装置
EGRバルブ 排気ガス循環装置
補機 オルタネータ バッテリー充電用発電機
エアコン
コンプレッサー
エアコン冷媒圧縮用
スターター エンジン始動
制御系 ECU エンジン制御コンピューター
A/Fセンサー 空燃比センサー

この他にも各種パイプ類、ホース類、電線ハーネス類などさまざまな部品の組み合わせで1台のエンジンが組上がっており、すべてが完璧に機能しないと稼動するエンジンにはなりません。

また近年はハイブリッドなどの普及によって電気モーター関連の部品も追加されてきており、複雑さはさらに増してきています。

ガソリンエンジンのメリット

ガソリンエンジンは自動車を初めとした割と小型の用途によく使われており、大型トラックや建設機械などではディーゼルエンジンが使われます。

この使い分けにはガソリンエンジンの持つメリットとデメリットが関係しており、乗用車用として圧倒的にガソリンエンジンが多いことの理由です。

ではまずガソリンエンジンのメリットをご紹介しましょう。

高回転まで振動が少ない

ガソリンエンジンがディーゼルエンジンに対して有利な大きな点の1つが振動の少なさで、高回転域まで比較的振動を抑えめにすることができます。

ディーゼルエンジンは圧縮着火機関といい、燃料を自己着火によって点火するエンジンですが、エンジンの圧縮比が高いためその燃焼は大きな衝撃を伴うものでありエンジン自体の振動が高くなる欠点があります。

そのためディーゼルエンジンは高回転まで回すと振動が激しくなる傾向にあり、乗用車用としては乗り心地などの面でデメリットがあります。

それに対しガソリンエンジンはスパークプラグによる点火で燃焼状態をコントロールできるため、低回転から高回転までスムーズな燃焼制御が可能です。

エンジン振動もディーゼルエンジンに比べると控えめで、乗用車用のエンジンとしては使いやすい特性があるのです。

またガソリンエンジンの圧縮比は後述する理由で高くできないので、抑え目な圧縮比が振動を減らす要因でもあります。

さらにガソリンは気化しやすく混合気が均等になりやすいので、燃焼状態も安定しています。

こういった要因が重なることでガソリンエンジンは振動が少ないという乗り心地をよくする上でのメリットを持っていることから、乗用車への採用が圧倒的に多いわけですね。

小型高出力のエンジンができる

ガソリンエンジンは1気筒あたりの排気量が500ccを越えると効率が低下することから、ピストンのボア径にある程度制限があり高トルク型にはしにくいエンジンです。

その代わり小型ピストンの特徴を生かして高回転型のエンジンに仕上げやすく、エンジン本体が比較的小型であるにもかかわらず、高回転で高出力なエンジンが実現できます。

一般的にエンジンのボア径は大きいほど低回転高トルク型、小さくて動きやすいほど高回転高出力型になります。

ガソリンエンジンの効率を考えると高回転型となり、乗用車の通常の走行域にぴったりなのです。

ディーゼルエンジンで高回転型とすると振動が増加してしまい、実用的ではありません。

また振動の少なさはエンジン本体の構造をディーゼルエンジンほど頑丈にしなくてよいので、エンジン本体が軽量に出来、またエンジン部品の劣化も比較的少なく寿命を長く出来ます。

バイクから小型車~大型車まで使われるエンジンとしてガソリンエンジンの特性は乗用車向きなのです。

排気ガスの処理が行いやすい

近年はエンジンの排気ガス規制が年々厳しくなってきておりエンジン開発の大きなハードルとなっています。

しかしガソリンエンジンは三元触媒という後処理装置で理想的な排気ガス浄化が可能で、ディーゼルエンジンのような苦労がありません。

エンジンの排気ガスの浄化には長らく貴金属を使用した触媒が活用されており、排気ガス中に残っている有害物質の浄化を行っています。

排気ガスにはHC(炭化水素)、CO(一酸化炭素)、NOx(窒素酸化物)の3つの有害物質が含まれており、これらは大気中への放出が厳しく制限されています。

エンジンの燃焼制御でもある程度は発生を抑えられますが完全ではなく、規制の方が年々厳しくなる中では後処理装置なしでは規制をクリアできません。

触媒にはさまざまな種類があり前述した3つすべてを処理できる触媒は昔はなかったのですが、1970年ごろに三元触媒が開発されたことで状況は一変します。

この三元触媒は前述した3つの有害物質すべてを処理できる触媒で、HC、CO、NOxを触媒で反応させることでH2O(水)、CO2(二酸化炭素)、N2(窒素)に変換して無害化出来ます。

ガソリンエンジンの排気ガス浄化に対しては三元触媒のみで処理が完結するのが素晴らしく、またあらかじめ混合気をつくって点火する形式ではPMと呼ばれる黒鉛物質も発生しません。

ディーゼルエンジンの記事でご紹介するような複雑な後処理装置が不要なので、低コストで後処理システムを組めるわけです。

ただ三元触媒にも弱点があり、3つの有害物質を同時に処理するにはエンジンの空燃比を理論空燃比に近い狭い範囲にとどめる必要があります。

そのためエンジンの空燃比制御の正確さがなにより重要で、そのために燃料噴射やスロットルを電子制御化する必要があったわけです。

またA/Fセンサーという排気ガスの分析を行うセンサーが必須となり、空燃比が制御通りかどうかをフィードバック制御しています。

さらにリーン燃焼ではNoxの生成量が多く、また排気ガスに使われなかった酸素が多く残っていることで三元触媒ではNOxの処理がうまく出来ないという弱点もあります。

その結果1990年ごろに主流だったリーンバーンエンジンはほとんどなくなってしまい、燃費が悪くなるもののリッチバーンからストイキまでで使うエンジンが大半となりました。

現代のエンジン開発は燃費と共に排気ガスの浄化技術の向上がなにより重要で、三元触媒がなかったらここまでガソリンエンジンが普及したかはわかりません。

三元触媒自体も規制の強化とともに大型化、貴金属量の増加は必要ですが、システムとしてほかの処理装置を必要としないのは大きなメリットなのです。

ガソリンエンジンのデメリット

乗用車用エンジンとして大きなメリットが数多くあるガソリンエンジンですが、ディーゼルエンジンと比較するとデメリットも見えてきます。

熱効率がディーゼルエンジンほどよくない

まずガソリンエンジンがディーゼルエンジンに大きく劣っているのが熱効率の点で、一般的なガソリンエンジンが30%程度が限界なのにたいし、ディーゼルエンジンは40%に達し、燃料のエネルギーを動力に変換する能力はディーゼルエンジンのほうが高いわけです。

オットーサイクルを使うエンジンの熱効率はエンジンの圧縮比をあげると向上するのは理論的にわかっており、圧縮点火を行うディーゼルエンジンは圧縮比が高い特性から熱効率が高めにできます。

ガソリンエンジンでも圧縮比をあげることが出来ればディーゼルエンジン並みの熱効率を出せるのですが、理論的では可能でも現実の世界ではガソリンを高圧縮するのには問題があり実現できないのです。

ディーゼルエンジンは軽油の自己着火で点火するのですが、軽油自体は自己着火に達する温度がガソリンより高くて、圧縮比を高くしても自己着火しにくい特性があります。

しかしガソリンは軽油より自己着火の温度が低いので、ディーゼルエンジンと同じ圧縮比にガソリンをいれるとスパークプラグで点火するまでもなく勝手に点火するのです。

ではディーゼルエンジンと同じじゃない、と思われるかもしれませんがその燃焼状態には大きな差があり、軽油は圧縮された空気に噴射されると噴射部分から徐々に燃焼が始まって燃焼室全体に燃焼が伝わるには比較的時間がかかります。

しかしガソリンはすでに混合気となって燃焼室全体に拡散しているので、混合気が圧縮されると混合気のあちこちから突然爆発が起こることとなり、非常に激しく衝撃をともなう爆発となってしまうのです。

この現象を「ノッキング」と呼ぶのですが、ノッキングで起こる衝撃や振動は非常に大きくエンジンにも悪影響を与えてしまうため、基本的にノッキングを発生させてはいけません。

ノッキングを抑制するためには圧縮比をある程度抑え目にしなくてはならず、これがディーゼルエンジンに熱効率で負けてしまう最大の原因となっています。

ディーゼルエンジンの場合はある意味ノッキングで点火しているといってもよいのですが、それはきちんと制御されたノッキングなのでガソリンエンジンほど振動と衝撃が発生しません。

なおガソリンにはレギュラーとハイオクの2種類があると思いますが、この2種類の違いはノッキング性の高さの違いであり、ハイオクは比較的ノッキングしにくいガソリンということです。

高出力エンジンでは圧縮比を高めにして効率を高めたいので、ハイオクガソリンを使うことでノッキングを抑えているわけですね。

燃費とCO2排出量がディーゼルエンジンに劣る

ガソリンエンジンは環境性能においてディーゼルエンジンに劣る部分があり、構造的な違いにより燃費とCO2排出量はガソリンエンジンが悪いです。

まず使用燃料の差によって、ガソリンより軽油のほうが完全燃焼時のCO2発生率が低いと言う特徴があり、同じ量の燃料を燃焼させた場合には軽油のほうが有利となります。

また熱効率の違いによって、同じ出力を出す場合には基本的にはディーゼルエンジンのほうが燃料消費量が少なくて済みます。

加えてディーゼルエンジンは基本的に空気量の多いリーンバーンとなりますので、リッチバーンやストイキの多いガソリンよりも燃料消費量の点でさらに有利となるのです。

また後述するポンピングロスと呼ばれる損失がガソリンエンジンにはありますので、これらを総合するとガソリンエンジンの燃料消費率とCO2発生率はディーゼルエンジンに結構劣ることとなります。

さらに燃料の単価がガソリンより軽油のほうが安い日本では、燃費という観点からはディーゼルエンジンに軍配が上がりますね。

ポンピングロスの発生

エンジンの損失は冷却損失などさまざまな損失があるのですが、ガソリンエンジンに特有なのがスロットルで発生するポンピングロスです。

スロットルという部品は吸入空気量の制御のためにガソリンエンジンには必須のものですが、構造的には空気の通る道に通せんぼをして制御していることになります。

私たちがストローで空気を吸うときには、太いストローより細いストローのほうが吸うのに力がたくさん必要となるのですが、エンジンの場合もそれと同じで狭い通路から空気を吸い込むのにエネルギーを使っているというわけです。

これによって発生する損失をポンピングロスと呼んでおり、ガソリンエンジン全体の損失うちの3割を占める大きなものです。

それに対してディーゼルエンジンは空気量は一定で燃料の噴射量で出力制御するので、基本的にスロットルが不要でポンピングロスが発生しません。

この事からもディーゼルエンジンのほうが効率がよいといえ、ガソリンエンジンは構造上どうしても無駄な損失が多いと言うわけです。

低速トルクは苦手

前述でもちょっと触れましたが、ガソリンエンジンは高回転、高出力には向いているのですが、低回転、高トルクではディーゼルエンジンのほうが有利となります。

低回転、高トルクのエンジンは基本的にピストンのボア径が大きく圧縮比が高いほうがよく、エンジン1シリンダーあたりで発生するエネルギーが大きいほうがよいわけです。

しかしガソリンエンジンは前述した圧縮比の制限のせいでピストンのボア径には制限があり、低回転高トルク型にはもっていきにくいのです。

低速トルクは車の加速をよくしますので、発進時の加速がよくなり運転しやすい車になります。

またトラックや建築機械のようにトルクが必要な大型車種にも必要な要素であり、そういった車種にガソリンエンジンが採用されにくい理由でもあります。

ガソリンが比較的危険

最後に燃料自体の危険性に言及しますが、ガソリンは気化性が高い燃料なので軽油よりも引火などの危険性が高く、ガソリンエンジン車の燃料系には特に信頼性が必要となります。

軽油はそのままでは気化することがなく、またちょっとした電気火花程度では火も付きません。

よく「軽自動車に間違って軽油をいれたら車が動かない」とかいうニュースを聞きますが、それほど軽油というのは燃えにくい燃料なのですね。

しかしガソリンはそれとは正反対ですぐに気化して空気中に拡散します。

さらにちょっとした火種があれば発火してしまうので、一般に軽油よりも危険性が高いわけです。

軽油であれば最悪燃料漏れが起こってもすぐには発火しませんが、ガソリン漏れは簡単に車両火災を引き起こしてしまうのでガソリン車は燃料配管やタンク、ポンプなどにより信頼性が求められます。

さらに気化したガソリンの大気中への放出は規制されているため、燃料補給時を除いてタンク内で発生した気化ガソリンを放出せず循環させるシステムも必要です。

ということは設計にある程度の難易度があり、また部品コストなども高めとなるのがデメリットですね。

ガソリンエンジンの将来

近年ガソリンエンジンだけの車というのは環境性能が劣っているという風潮が一般的で、日本ではその対策としてハイブリッドカーが普及しました。

電気モーターを併用することで高効率なパワートレインが実現でき、燃費もかなり向上しましたね。

そのためコストがかかるハイブリッドカーでも売れ行きは好調で、もはや何かしらのハイブリッド技術を織り込まなければガソリンエンジンには競争率がなくなってきてしまいました。

また海外ではディーゼルエンジンの低公害、高効率な面に焦点を当てて乗用車用ディーゼルエンジンの開発が盛んに行われ、ハイブリッドでなくても環境性能の高いエンジンが数多く登場しました。

そのため欧州でのディーゼルエンジン乗用車はシェアの半分を占め、ガソリンエンジン一強という体制はすでにありません。

国内でもマツダは同じ路線で進んでおり、ハイブリッドを展開しない代わりにディーゼルエンジンを環境対応車の中核としてここ数年ラインナップを増やしています。

さらにはエンジンが不要な100%電気自動車も次第に増えてきており、高効率モーターと容量の高いバッテリーによってエンジン車に匹敵するスペックと航続距離を手にいれつつあります。

中には完全な電気自動車じゃなくてもエンジンは発電のみを行い、走行はモーターで行うという日産 ノート e-powerなどの車種も出てきており、車のパワートレインというのはガソリンエンジン単体以外が非常に多種多様になってきました。

中国や欧州などでは将来電動システムをもたない車の販売を規制する動きが出てきており、世界的な情勢としてもガソリンエンジンはなかなか厳しい時代に突入しています。

これまでのガソリンエンジンの改良だけでは将来は厳しくなってきており、さらなる新技術の投入と電動化を積極的に行うことが必要となるでしょう。

ガソリンエンジンの最新技術

ガソリンエンジンにとって厳しい時代が到来するときに、日本のメーカーから2つの新技術が
登場したのは非常に喜ばしいことです。

どちらもこれまで世界中のメーカーが開発してもうまくいかなかった分野のもので、今後のガソリンエンジンの発展には欠かせない技術となります。

そんな最新のガソリンエンジン技術をご紹介しましょう。

日産自動車:可変圧縮比エンジン

VCターボエンジン

日産自動車が世界に先駆けて実用化したのが可変圧縮比エンジンというガソリンエンジンで、これまで実用の難しかった走行中の圧縮比変更という最新技術を盛り込んだエンジンです。

これまでも何度も説明した通り、エンジンの圧縮比は高いほうが効率は高まりますが、同時にノッキングの問題により頭打ちともなっています。

しかしノッキングの起こる領域というのは高負荷時であって、必ずしも全領域で起こると言うわけではありません。

つまり低負荷時、一般走行時などは可能であれば圧縮比を限界まであげたく、高負荷時には圧縮比を下げたい、というのがエンジン開発の悲願でした。

可変圧縮比の開発自体は日産以外でも昔から行われており、構造的にはいろいろと開発は可能なのですが、実用性という面ではなかなか難しい面がありました。

しかし日産はついに実用化が可能な構造と耐久性を持つ可変圧縮比エンジンを開発し、量産車に順次採用されていくそうです。

構造的にはシンプルで、ピストンとクランクシャフトを繋げるコンロッドを2分割とし、電子制御アクチュエーターで分割部分を稼働することでピストンストロークを調整します。

構造が単純ではありますが、コンロッドはエンジンの部品の中でももっとも負荷の高い爆発エネルギーを受け止める部分でもあり、精密なアクチュエーターをそこに仕込むというのは難しい技術です。

耐久性のあるアクチュエーターの開発成功がこのエンジンの実用化に繋がり、世界に先駆けて日産が量産車に搭載することとなったのです。

HCCI(予混合燃焼)エンジン

マツダ SPCCIエンジン

もうひとつの最新ガソリンエンジンがHCCI(Homogeneous-Charge Compression Ignition)(予混合燃焼)エンジンというもので、完全なHCCIエンジンの実用化に日本のマツダがあと一歩のところまで来ています。

それに先駆けて実用エンジンとしてSPCCI(Spark Plug Controlled Compression Ignition)というエンジンが2019年に登場します。

HCCIの機構

HCCIという機構も長らく世界のメーカーが開発を続けているエンジンですが、可変圧縮比以上に難易度が高く、実用化には遠い技術でした。

このエンジンはいわゆるガソリンエンジンとディーゼルエンジンのいいとこ取りをするエンジンであり、ガソリンエンジンの混合気を使いながらディーゼルエンジンとおなじ圧縮着火を使うエンジンです。

つまりガソリンエンジンに高圧縮比を実現して熱効率を上げ、さらにスーパーリーンバーンと呼ばれる空燃比30以上を採用してディーゼルエンジン以上の効率を実現しようというわけです。

しかし何度かご説明してきたように、ガソリンエンジンで高圧縮比を採用するとどうしてもノッキングの問題が出てきてしまいます。

日産は可変圧縮比という技術でブレークスルーを果たしましたが、HCCIでは圧縮比は一定でディーゼルエンジン並みに設定されています。

ノッキングというのは燃料の自己着火が制御できずに不規則に起こるのが問題なので、ディーゼルエンジンのようにガソリンの自己着火を制御できれば、ガソリンエンジンでも自己着火機関が実現できるのです。

ですがこの自己着火の制御というのが非常に難易度の高い技術であり、運転条件によって負荷も温度も変わるエンジン内部の燃焼条件を正確に予測して制御するのは至難の技でした。

それが出来ればHCCIエンジンは完成したも同然なのですが、世界の名だたるメーカーが制御に成功した例はなく、実験室レベルのエンジンが長く続いていたのです。

マツダの実用SPCCIエンジン

しかしマツダは世界に先駆けてHCCIの分野で一歩先をいくエンジンを実用化させ、SPCCIと呼ばれるHCCIまで一歩手前の技術を実現しました。

HCCIで難しいのは燃焼の制御を完璧に行うことですが、スパークプラグを持たない状態では点火タイミングを運転条件などから燃焼状態を予測しなければならず、細かな制御とフィードバックが難しいままでした。

しかしSPCCIではあえてスパークプラグを活用する方式とし、圧縮着火寸前まで圧縮された混合気の上部に点火することで燃焼が始まります。

しかし点火されたことで圧縮された混合気の上部に圧力が発生し、混合気を上からもさらに圧縮するような状況が生まれますので、混合気全体としてはスパークプラグからの火炎伝播による燃焼ではなく、圧縮着火による燃焼が始まることとなります。

この技術によりHCCIで一番難しい点火タイミングと燃焼の制御を一挙に行え、スパークプラグによるきっかけ作りは必要なもののHCCIに限りなく近いエンジンが実用化できたというわけです。

HCCI化による効率向上

HCCIでは圧縮比が高いことに加えてスーパーリーンバーンを行うので、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンより熱効率も燃費も大幅に向上することが期待されています。

熱効率は燃焼効率の高いガソリンを使うことで50%近くまで向上すると言われており、これまでのガソリンエンジンを大幅に上回る高効率エンジンとなります。

出力の調整はディーゼルエンジンと同じく燃料噴射量で制御するのでスロットルが不要となり、ポンピングロスの損失もなくなります。

さらにスーパーリーンバーンによって燃料消費量も少なくなり、燃費の向上にも寄与するのです。

なおリーンバーンではNox発生が多くて三元触媒が使えないとご説明しましたが、スーパーリーンバーンまでいくと燃焼温度があがらないのでNoxの発生量が少なくなることで、三元触媒での後処理が非常に楽になるのでそのまま触媒は採用できるそうです。

ガソリンとディーゼルのいいとこ取りのエンジンですので、SPCCIエンジンの実力には日本だけでなく世界が注目しています。

ガソリンエンジンの車は買いなのか?

昔は自動車の高性能エンジンといえばガソリンエンジンが主流でしたが、さまざまな方式のエンジンが登場している現在においては純粋なガソリンエンジンの車にはアドバンテージが薄くなってきているのは確かです。

燃費など環境性能ではハイブリッドや電気自動車が有利ですし、おなじハイブリッドにしても燃費効率ではなく車の性能向上に振り向けたスポーツモデルもあり、現時点ではハイブリッドカーが優秀選択肢であるのは間違いありません。

しかしハイブリッドカーというのはどうしても高コストになってしまい、電気モーターやバッテリーが車の値段を押し上げる原因になってしまうので、現時点でのガソリンエンジンのメリットはコストと値段となります。

ですが可変圧縮比エンジンやHCCI(SPCCI)など、これまでのエンジンを凌駕する高効率エンジンが登場間近であり、今後数年間はガソリンエンジンの歴史にとって新たなステージが開く年でもあります。

現時点でこれらのエンジンの実力は未知数ですが、今後ガソリンエンジンとハイブリッドカーの立場がかなり近くなってくるのは確実でしょう。

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この記事を書いた人

佐藤茂道
佐藤茂道
某自動車メーカーのエンジン部門で開発経験あり。子供の頃から車雑誌を切り抜きし、高校ではオートバイ・車にどハマりする。就職する際に、某自動車メーカーを選び、仕事でもプライベートでも車漬けに。今は日産スカイラインR33が愛車。