ハイブリッドカーは高い環境性能を持つ車種のカテゴリーで、日本で特に発展した車種でもあります。
そんなハイブリッド車の中にもシステムの違いでいくつも種類があり、各自動車メーカーの特色が表れる点でもあります。
今回はそんなハイブリッドシステムについてご説明します。
ハイブリッドシステム/方式の種類
ハイブリッドカーは定義としては「2種類の動力源を持つ車」となっており、一般的にはガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関と電気モーターを搭載した車種となっています。
ハイブリッドカーとは?メリット6つとデメリット/問題点11つ特徴をわかりやすく解説!その目的は車の燃費の向上にあり、エンジンの損失を電気として回収する充電機能や、エンジンを停止して電気モーターで走行するEV走行を駆使して、従来のガソリン車やディーゼル車より大幅に燃費を伸ばしています。
しかしそれを実現するハイブリッドシステムにはさまざまな種類があり、自動車メーカーごとに独自のシステムを持つこともよくあります。
ハイブリッドシステムには分類すると次のような種類があり、次々新しいシステムも登場しています。
スプリット式ハイブリッド
スプリット式のハイブリッドシステムは、ハイブリッドカーの最大手であるトヨタ自動車が採用している種類で、ハイブリッドカーの代表格であるプリウスを始めとしたトヨタ車の多くに採用されています。
プリウスの口コミ/評判!価格から外装や走行性能まで全てチェック!スプリット式ハイブリッドシステムには、一基のエンジンと2基のモーターが搭載されており、モーターは発電用と走行用に分かれています。
そしてエンジンと2つのモーターの間は「遊星歯車装置(プラネタリーギア)」という減速機で接続されており、遊星歯車装置の機能でエンジンとモーターの間の動力伝達割合を細かく変化させることができます。
このシステム構成からスプリット式(動力分割式)と呼ばれています。
遊星歯車装置は3種類のギアの組み合わせによって作動する装置で、その3種類のギアをコントロールすることによって
- 正転
- 逆転
- 減速
- 増速
を自在に生み出せます。
その特徴からエンジンの動力をモーターに伝える割合を変えたり、逆に走行用モーターと発電用モーターにかかる負荷の割合を変えたりすることが出来、車の走行条件にあわせた適切な制御を行うことができます。
システムとしてコンパクトにまとまるハイブリッドシステムであり、また燃費改善効果も高いことから、トヨタは一貫してスプリット式を使い続けています。
一方で制御の難しさや、トランスミッションがないことから高速燃費が悪化するなどのデメリットもあり、技術的には難易度の高いシステムでもあります。
またスプリット式は関連する技術の特許をトヨタ自動車が大半獲得していることから、トヨタ以外の他社がこのシステムを利用するのが難しくなっています。
パラレル式ハイブリッド
パラレル式ハイブリッドシステムはトヨタ以外のメーカーが多く採用するシステムで、エンジン一基とモーター一基の組み合わせが基本です。
一般的にはエンジンとトランスミッションの間に電気モーターが組み込まれており、モーターによる発電、走行をひとつのモーターで対応しています。
既存のエンジンとトランスミッションの間にモーターを搭載するので比較的組み合わせが簡単で、またスプリット式のように特許の縛りが少ないのでさまざまなタイプのパラレル式システムが登場しています。
初期のパラレル式はエンジンアシストにモーターを活用する簡易的なシステムが一般的で、常にエンジンが稼働してモーターだけの走行は不可能なシステムでした。
このシステムでは燃費改善効果があまり高くないのですが、その一方で走行性能は強化されます。
ですが現在一般的なのはモーターとエンジンを切り離すことのできるシステムで、モーターのみでの走行とエンジンとモーターのハイブリッド走行を任意に切り替えることができます。
モーターが1基で済むのでコストと搭載スペースの点で有利であり、またトランスミッションもあるので高速走行も得意です。
一方でモーターが1つしかないので発電か走行かどちらかしかできず、燃費改善効果についてはスプリット式に一歩及びません。
ただ構造上でまだまだ改良点や変更可能な箇所も多く、今後の発展が期待できます。
シリーズ式ハイブリッド
シリーズ式ハイブリッドは現在のハイブリッドシステムから見ると少し特異なシステムで、走行は完全にモーターのみで行い、エンジンは発電専用に使われるシステムです。
現在このシステムを採用しているのはトラック関係を除けば自動車では数社のみですが、実はハイブリッドシステムの歴史からするともっとも最初期に考案されたシステムです。
これに関しては以下の記事で詳しくご説明していますが、このシステムの目的はエンジンが苦手としている回転領域を使わずに最も効率的な領域で発電し、そこで生まれた電気で走行するというものです。
ハイブリッド車の仕組み/構造を簡単にわかりやすく解説!言葉の意味が重要?!ハイブリッドカーに使われるエンジンは効率の高いものが多いのですが、それでも低回転から高回転まで対応しなければならないとかなり効率が低下します。
そこでこのシステムではエンジンは得意な領域で発電をメインで行うために搭載され、走行には一切関係しません。
走行はモーターなので走行感覚が電気自動車に最も近く、他方式のハイブリッドシステムとは走行感覚が大きく違います。
またモーターは減速時には発電を行う回生ブレーキにもなるので、ハイブリッドカーのメリットも併せ持ちます。
燃費に関してもスプリット式に匹敵するほどの高い性能を持っており、とくに一般道でその威力を発揮します。
一方で高速領域はモーターが余り得意としていないこともあって効率が低下し、高速燃費に関しては大幅に悪化する点もあります。
エンジンとモーターが完全に分かれていることでシステム的にはわかりやすいのですが、一方で別れていることで車への搭載スペースが多く必要で、採用しているメーカーは多くありません。
プラグインハイブリッド
プラグインハイブリッドはこれまでのハイブリッドシステムを発展させたシステムといえ、ハイブリッドカーに充電機能を追加した車種です。
充電機能というのはハイブリッドカーの駆動バッテリーを外部電源でも充電できる機能で、これまでのハイブリッドカーが搭載しているエンジンをエネルギー源にして充電していたのに対して別の動力源で充電できるのが特徴です。
またプラグインハイブリッドの駆動バッテリーは容量が増加しており、電気モーターのみで50km近い距離を走行することが可能です。
それ以外のハイブリッドシステムは基本的に従来のハイブリッドカーと同じで、スプリット式、パラレル式など形式は数多くあります。
プラグインハイブリッドはモーターで走行している間はエンジンが停止しているので、その間はエンジンの燃料消費がなく、車として燃費を大幅に伸ばすことが可能となります。
50km前後の走行距離というのは買い物や通勤、通学などの普段使いで十分な距離であり、そういう使い方がメインであればエンジンを全く動かさなくても走行が可能です。充電は家庭用電源でも可能なので、家から近距離の往復なら燃料は一切不要です。
プラグインハイブリッドカーはこの特徴から従来のハイブリッドカーよりも実燃費が伸びており、充電メインの乗り方を積極的に行うことが効率の良い使い方です。
現在トヨタを始めとして世界中のメーカーが開発に積極的に参加しているカテゴリーであり、次に普及するのは間違いなくプラグインハイブリッドカーでしょう。
なおプラグインハイブリッドについては以下の記事でも取り上げているので、興味のある方はこちらもあわせて参考にしてみてください。
プラグインハイブリッド(PHEV)とは?EV,PHV,HVとの違いからメリット/デメリットまで解説!マイルドハイブリッド
マイルドハイブリッドは一言でいうと簡易的なハイブリッドシステムで、コスト面でのメリットが大きい半面、燃費改善効果は限定的です。
近年マイルドハイブリッドが登場したため、それまでのハイブリッドシステムはストロングハイブリッドなどと呼ばれるようになりました。
ストロングハイブリッドとは?搭載車種はソリオとスイフト?日産からも紹介!マイルドハイブリッドシステムの基本はパラレル式の構成をしており、エンジンとモーター1基で構成されます。
ですがマイルドハイブリッドではモーターによる走行は想定されておらず、充電およびエンジンアシストに機能が限定されています。
そのため燃費改善はストロングハイブリッドよりも低くなってしまいますが、モーター出力やバッテリー容量などが小さくて十分な分、コストを抑えることが可能です。
マイルドハイブリッドはストロングハイブリッドと同じようなモーターを採用する場合もありますが、従来のエンジンに搭載されていたオルタネーターの性能を強化したジェネレーターをハイブリッドのモーターに利用している例も多く、より低コスト化が可能です。
この特徴からマイルドハイブリッドは多くの車種に展開することが容易なことが最大のメリットとなっており、特に欧州メーカーが積極的に採用するシステムとなっています。
マイルドハイブリッドはエコカーとしては性能が限定的なので将来的には減少傾向にありますが、それまでの間のつなぎとしては重要な技術となっています。
なおマイルドハイブリッドについては以下の記事でも取り上げているので、興味のある方はこちらもあわせて参考にしてみてください。
マイルドハイブリッド(MHEV)とは?仕組み/構造は?搭載車の燃費は悪いのか解説!マルチステージハイブリッド
マルチステージハイブリッドはトヨタが開発した次世代のハイブリッドシステムの一つで、遊星歯車式のスプリット式ハイブリッドシステムを進化させたものです。
遊星歯車式のハイブリッドシステムは、ギアが遊星歯車のみとなったコンパクトなシステムですが、トランスミッションがないことで高速走行時の効率が悪く、高速燃費が悪化する特徴を持っています。
それでも一般道路では十分な燃費性能を持つシステムだったのですが、トヨタはそこに4速のオートマチックトランスミッションを組み合わせ、全域での効率と燃費を改善するハイブリッドシステムを構成しています。
またスプリット式ハイブリッドはその構成から加速のラグがある場合もあるのですが、4速ATの効果によって加速も良好となります。
一方でマルチステージハイブリッドは従来のハイブリッドシステムに4速ATが追加されたので、コストが増加するシステムともなっており、現在トヨタの高級車種にしか採用例はありません。
トヨタのハイブリッドシステムは他形式に比べるとコスト高の傾向にあるのですが、マルチステージハイブリッドはより高コストとなるために普及は限定的です。
燃費性能は優秀ですが販売価格とのバランスが必要なので、大型車種にしか採用が難しいシステムです。
レンジエクステンダーEV
レンジエクステンダーEVはEV(電気自動車)の一種類として挙げられることが多いのですが、実はハイブリッドカーの一種類でもありシリーズ式ハイブリッドとほぼ同等のシステムです。
EVはエンジンがない車種なので燃料を消費しない究極のエコカーですが、バッテリー性能とコストの問題から航続距離に不安を抱えており、バッテリーが不足するたび充電をしなければならないというデメリットももっています。
そこでEVの航続距離「レンジ」を延長「エクステンド」するために充電用エンジンを搭載している車種がレンジエクステンダーEVと呼ばれます。
シリーズ式ハイブリッドとレンジエクステンダーEVの違いはほぼありませんが、メーカーによってその呼び方はさまざまです。
もしハイブリッド車を買おうと考えているなら、あわせて正しい値引き交渉のやり方も覚えておくといいですよ。
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自動車メーカー各社はそれぞれ独自のハイブリッドシステムを開発しており、さまざまな名称で呼んでいます。
ですがシステム構成としてはおおよそ前述のどれかに属しており、以下に代表的なメーカーのハイブリッドシステムをまとめました。
ハイブリッドシステム | 採用しているメーカー | メーカーでの名称 |
スプリット式 | トヨタ | THS(Toyota Hybrid System)、THS-Ⅱ |
パラレル式 | ホンダ | HONDA IMAシステム SPORT HYBRID i-DCD SPORT HYBRID i-MMD |
日産 | インテリジェントデュアルクラッチコントロール | |
スズキ | ハイブリッド | |
スバル | e-boxer | |
メルセデス・ベンツ | EQ Power | |
BMW | iPerformance | |
シリーズ式 | 日産 | e-power |
プラグインハイブリッド | 三菱 | プラグインハイブリッドEVシステム |
トヨタ | THS-Ⅱ(改良型) | |
ホンダ | SPORT HYBRID i-MMD Plug-in | |
メルセデス・ベンツ | EQ Power | |
BMW | iPerformance | |
マイルドハイブリッド | 日産 | S-HYBRID |
スズキ | S-エネチャージ | |
メルセデス・ベンツ | マイルドハイブリッド 48Vマイルドハイブリッド | |
BMW | iPerformance | |
マルチステージハイブリッド | トヨタ | MULTI STAGE HYBRID |
レンジエクステンダーEV | BMW | eDrive |
シボレー | E-REV |
ここに挙げた以外にもさまざまなメーカーがさまざまな名称でハイブリッドシステムを登場させていますが、上の表からわかる通り名称はメーカーごとに違います。
また同じメーカーでもシステムが違えば名称が違うところもあれば、ハイブリッドシステムを総称して呼んでいるメーカーもあります。
しかし使用されているシステムを見てみるとスプリット式およびその派生であるマルチステージハイブリッドはトヨタしか採用されておらず、特許関係での縛りが厳しいのがわかります。
他のメーカーはパラレル式やシリーズ式を採用しているのはこれが原因です。
なおハイブリッドシステムについては以下の記事でも取り上げているので、興味のある方はこちらもあわせて参考にしてみてください。
Sエネチャージとは?ハイブリッドより評価が高い?搭載車種はこれ!エネチャージとは?燃費効果がある仕組み/構造とは?搭載車種まで解説!おすすめのハイブリッドカーのメーカー
ここまでご説明してきたようにハイブリッドカーはさまざまなシステムで各社独自の車を開発していますが、その中でおすすめのメーカーをご紹介しましょう。
トヨタ:THS-Ⅱ
まずハイブリッドカーといえばその発祥であるトヨタを挙げないわけにはいきません。
トヨタは初代プリウスの発売から現在まで一貫してハイブリッドカーをエコカーの主軸に据えており、さまざまな車種へ同社のTHSシステムを搭載しています。
THSシステムはなにより世界トップの燃費性能を実現しているシステムということで評価が高く、現行プリウスは40.8km/Lという量産車で始めて40km/Lを越えた車です。
プリウスの燃費は悪い?街乗りや高速の実燃費は?改善し向上させる方法まで解説!トヨタのTHSシステムは毎年改良を続けながらも基本的な構造は踏襲しており、ハイブリッドシステムの基本的な構造の完成度が高いシステムです。
それは燃費の高さからも証明されており、他社がさまざまな構造のハイブリッドシステムを登場させている中においても依然THSには優位性があります。
さらに弱点であった高速燃費はマルチステージハイブリッドによって改善されてきており、コスト面の高さを除けば世界最高のハイブリッドシステムと言っても良いでしょう。
コストの高さはトヨタのような世界トップクラスの販売台数を持つメーカーにとっては、スケールメリットで軽減が可能であり、やはりトヨタ向きのシステムといえるでしょう。
日産:e-power
日産は長年ハイブリッドカーの分野でトヨタの後塵を拝してきましたが、シリーズ式ハイブリッドのe-powerの登場で一気にその地位を固めました。
e-powerシステムは日産のコンパクトカー ノートに初搭載されましたが、その走行感覚がEVと同様のトルクフルな点が従来の車と大きく違う点が評価され、販売台数でトヨタ車に匹敵するほどの人気になりました。
それまで日産はEVを主軸とした環境戦略を取っていましたが、航続距離の短さで苦戦しており、同様な走行感覚で航続距離も長いシリーズハイブリッドシステムは同社の戦略にも合致しています。
e-powerはそれまでのハイブリッドシスなおについては以下の記事でも取り上げているので、興味のある方はこちらもあわせて参考にしてみてください。
テムにありがちなパワーが不足する感じや走りを犠牲にした感じがなく、燃費の良好さとともに新しい感覚を持つ車という点が新鮮です。
e-powerはノート以外にミニバンのセレナにも展開され、今後の日産のハイブリッド戦略の中で大きな位置を占めるものです。
なおノート・セレナについては以下の記事でも取り上げているので、興味のある方はこちらもあわせて参考にしてみてください。
日産ノート(e-power)の口コミ/評判!価格から外装や走行性能まで全てチェック!セレナ(e-power)の口コミ/評判!価格から外装や走行性能まで全てチェック!メルセデス・ベンツ:48Vマイルドハイブリッド
メルセデス・ベンツも何種類ものハイブリッドシステムを開発しており、ストロングハイブリッドもあるのですが、現在注目されているのは48Vマイルドハイブリッドシステムです。
48Vとはハイブリッドシステムのシステム電圧を表す言葉で、一般的にハイブリッドシステムは電圧が高いほど燃費効率が高くなります。
ストロングハイブリッドは200V前後の非常に高い電圧で効率は良いのですが、システム全体が複雑となってコストが高くなる欠点があります。
一方で通常のマイルドハイブリッドは12V程度の低い電圧なのでコスト面は良いのですが、燃費改善効果はそこまで高くなりません。
そこで欧州で今後トレンドとなっていきそうなのが48Vのシステム電圧を持つハイブリッドシステムで、コストを抑えながら従来のマイルドハイブリッドより高い燃費性能をもたせるシステムです。
48Vという電圧は中途半端にも見えますが、電気の世界では高電圧に該当しないというボーダーラインでもあるので、回路や人体の保護に使われるコストを抑えることができるのです。
この48Vマイルドハイブリッドシステムはメルセデス・ベンツなどドイツ主要メーカーから順次登場する見込みで、世界のハイブリッドシステムの一つの主流となるものです。
48Vマイルドハイブリッドシステムとは?仕組みや燃費への効果も全て解説!