トヨタ アルテッツァは1999年に登場したスポーツセダン。
平成の86や和製BMWとして期待を背負い、華々しいデビューを飾りましたが、車重に対してパワー不足といわれスポーツカーとしての評価はいまいち。
デビューから20年が経つアルテッツァですが、今一度その加速性能を検証してみたいと思います。
アルテッツァの加速性能
トヨタ アルテッツァが登場したのは1999年。
パッケージ効率が優先された全輪駆動車が主流となる中、FRならではの車を操る楽しさを優先して開発され、名車AE86スプリンタートレノ/レビンの平成版として大きな期待を背負ってデビューしました。
シャシーは格上のトヨタ プログレの高剛性プラットフォームを流用し、スポーティでスタイリッシュなボディをまとった5ナンバーサイズボディは、欧州ではレクサス ISとしてプレミアムな佇まいを有しています。
アルテッツァとレクサスISの違いとは?エンブレムは同じなの?アルテッツァには4気筒と6気筒の2Lエンジンが搭載されます。
直列4気筒エンジンの特徴!どんな音?搭載車を日本車/外車の車種からそれぞれ紹介!直列6気筒エンジンの特徴!どんな音?搭載車を日本車/外車の車種からそれぞれ紹介!モデル | エンジン型式 | 最高出力 | 最大トルク |
AS200 | 1G-FE | 160PS | 20.4kgf・m |
RS200 | 3S-GE | 210PS | 22.0kgf・m |
6気筒エンジンの1G-FEは、160PSと控えめなパワーの実用エンジンであり、粘りある低速トルクと、直列6気筒エンジンならではのスムーズな吹き上がりでアルテッツァをジェントルなプレミアムコンパクトサルーンとしての性格を与えます。
そして、スポーツセダンとしてのアルテッツァの主役となるのが、ヤマハがエンジンチューンを施した3S-GE。
3S-GEを搭載する、メインモデルのアルテッツァ RS200の0-100km/h加速性能を検証します。
アルテッツァのための3S-GE
アルテッツァ RS200に搭載するために、本来横置きエンジンとしてトヨタ セリカやMR2に搭載実績のある3S-GEを、縦置きエンジンとして改修。(縦置きと横置きの違いは以下の記事をご参照ください。)
エンジンの縦置きと横置きの違い6つ!メリット・デメリットを解説!前後重量バランスを改善したフロントミッドに搭載し、当時の最新技術を注ぎ込んでアルテッツァのためにチューニングされた専用エンジンです。
- レーシングカー並の高圧縮比として熱効率を向上。
- 吸排気ともに可変バルブタイミング機構を備えたデュアルVVT-iを市販車として初めて採用。
- 市販車としては異例のチタン合金製バルブを採用した徹底的な動弁系の軽量化。
- レブリミット8400回転の高回転エンジンへとリファイン。
- 最高出力はリッターあたり100PS超えの210PS。
アルテッツァの3S-GEはヤマハによって贅沢なメカチューンが施された、高回転高出力型エンジンです。
なお上記のVVT-iについては以下の記事で詳細を解説しています。興味のある方はこちらもあわせてご参照ください。
VVT-iエンジンとは?仕組み/構造は?故障時の症状から修理費用まで解説!アルテッツァの0-100km/h加速とタイム
デビュー当時の2リッターNAエンジンでは最高出力を誇る、210PSを7600rpmで発生させる高回転エンジンを搭載したアルテッツァの0-100km/h加速は7.3秒。
エンジン基本設計の古さから、決して綺麗な回り方をするエンジンではありません。しかし4500rpmを過ぎたところからトップエンド手前まで続く、急激なトルクの高まりは実用エンジンとは一線を隔てるスポーツエンジンならではの吹き上がりをみせます。
当時は珍しかった6速MTで操るアルテッツァの3S-GEは1、2速は一瞬で吹けきり、3速では息の長い加速の伸びが味わえます。
加速音は、鋳鉄ブロックらしい芯の太いエンジン音に、高圧縮エンジン由来の高周波の排気音が混じった独特の音はまるでレーシングカー。
1320kgの車重は決して軽いとは言えませんが、当時では重いとされたものの、現代の基準で照らし合わせればそれほど重いとも言えません。
カタログスペックどおりの出力は出ていないと噂されますが、0-100km/h加速タイムは、トヨタ 86/スバルBRZと同等の加速性能であり、決して遅い車ではありません。(86の加速感の詳細は以下の記事をご参照ください。)
トヨタ86(ハチロク)の試乗レビュー・感想!乗り心地はいかに?!アルテッツァはなぜ遅いといわれるのか
アルテッツァは決して遅い車ではありませんが、なぜこうまで遅いといわれるのでしょうか。
それには、しっかりとした理由があります。
アルテッツァの技術的欠点を指摘します。
エンジンの欠点
可変バルブタイミング機構は現在のものほど可変幅はなく、高回転高出力の特性とした代償に実用回転領域の1,000〜4,000rpmでの性能は実用エンジンを下回る性能しか出せていません。
そのため、低速トルク不足で出足は遅く、新規採用された電子スロットルがゆっくり開いてしまう中間域でのアクセルレスポンスは鈍いものとなります。
それらを改善するために採用された重いダンパー付きのフライホイールがさらなるレスポンスの悪さと、発進時のクラッチ操作の悪癖となってしまいました。
トランスミッションの欠点
新開発の6速MTのギア比設定も、各ギア比を近づけたスポーティな設定ではなく、6速をオーバードライブとしての比率を高めた燃費重視のギア比。
おまけにスポーツドライブでもっともよく使う2〜3速間が離れているため、レブリミット寸前まで回してシフトアップしなければ、パワーバンドを外してしまい加速不良に陥ってしまうのです。
この結果、アルテッツァを走らせる際には不足気味の低速トルクでゆっくり走るか、サーキットを走るような高回転を維持して速く走らせるかのどちらかに限定されてしまいます。
低回転域と高回転域の極端な二面性から、適度なペースで走ることが難しい車。
いわゆる「速いけれどもドライバビリティの悪い車」との評価を受け、遅い車のレッテルが貼られる結果となってしまいました。
トータルセッティングの欠点
各所の造りはレーシングカーの構造を思わせる非常に優れた設計なのですが、細かな部分のセッティングが煮詰めきれていない点がアルテッツァの最大のウィークポイント。
乗用には扱いにくいほどに極端なトルク特性のスポーツエンジンはともかく、それを活かすためのギア比の設定ができていない点。
さらにエンジンマウントやサスペンションゴムブッシュの硬度の選定の悪さと、サスペンションダンパーの造りが悪さがシャシーの基本構造の良さをスポイルしてしまっています。
それらセッティングの煮詰めの甘さは、アルテッツァ開発にあたって燃費と快適性とコストダウンを重視したマーケット部門の主張と、高性能なスポーツセダン作りたい車両開発部門の意見のせめぎ合いが見て取れます。
アルテッツァの優れた点
欠点が多いアルテッツァの優れた点を挙げていきます。
- ハイパワーNAらしい、高回転高出力のエンジン。
- 高回転型エンジンを活かす6MT。
- 高出力を受け止める、優れたシャシーバランス。
(NAエンジンの詳細は以下の記事をご参照ください。)
NAエンジン(自然吸気エンジン)とは?メリット5つ!音が最強の魅力?!特に、アルテッツァの欧州基準の優れたシャシーは、フロントとリアのオーバーハングを切り詰めたコーナリングを重視した理にかなった設計。
長めにとられたホイールベース内に収められる高性能エンジンはFRとして理想的な前後重量分配とトラクション性能を実現し、高回転高出力のスポーツエンジンの全開加速をしっかりと受け止める高い直進安定性をもつ、懐の深さを備えたシャシーが与えられます。
アルテッツァの総合的な評価
エンジン・トランスミッション・シャシーなどそれぞれの構造は素晴らしいのに、各部の細かなセッティングの煮詰めの甘さにより、車全体の性能が押さえ込まれています。
アルテッツァは、市販状態ではそのポテンシャルを発揮しきれていません。
欠点がはっきりしているアルテッツァは、ユーザー自身が購入後に少し手を加えてやれば劇的に変化する車であるといえます。
アルテッツァはチューニングベースに最適
アルテッツァは「ユーザー自身が手を加えることで、完成される車」としても売りだされましたが、セッティングの煮詰めがあまりにもお粗末。
しかし、スポーツ性能を期待されていたため、改造のためのチューニングパーツは豊富にラインナップされています。
ただし、発売から時間が経過しているため、廃盤部品が増えてきている点には注意が必要です。
サスペンションのポイント
安っぽい作りのサスペンションダンパーと、フロントロアアームバーの前後位置を決めるトーコントロールロッドのボディ付け根のブッシュを強度の高いものへと交換するだけでハンドリングはずいぶんシャープになります。
リアサスペンションのジオメトリーが極端な直進安定方向にセットされているで、それを改善するパーツも販売されていました。
パワートレーンのポイント
燃費重視に設定されたギア比は、後期型ではデファレンシャルのファイナルギアを低めることで対策されています。
デフのファイナルギア比の低いものへと交換すると、燃費と最高速は落ちてしまいますが、各ギアのつながりがよくなり、加速性能が向上します。
本格的な対策としては、1・2・3速のギア比を交換するクロースミッションキットがTRDから販売されていましたが、すでに廃盤となっています。
エンジンのポイント
価格の30万円ほどのボルトオンターボキットの装着で230PSあたりまでの馬力向上が期待できます。(ターボの詳細は以下の記事をご参照ください。)
ターボエンジンとは?仕組み/構造は?メリット2つとデメリット4つ!ローブーストでの使用であれば、低速のレスポンスも損なうことも、エンジンへのダメージの心配もなく安定した出力向上が可能です。
もっともコストパフォーマンスの高いチューンといえるでしょう。
アルテッツァの中古車を安価に購入して、余剰金を改造費に当てれば、現行車にも見劣りしないパフォーマンスを発揮する車となるでしょう。
アルテッツァを安く購入するには、正しい値引き交渉のやり方を覚えておくといいですよ。
このやり方を知らないと最大60万円以上も損しますよ。詳しく知りたい方は、下記の『たった1分で車を60万円値引きできる裏技』のページをご覧ください。 たった1分で車を60万円値引きできる裏技!安く購入する秘密のテクニックとは?!アルテッツァの実際の加速感
実際のアルテッツァの加速性能はどれほどなのでしょうか。
Twitterのツイートからアルテッツァの加速性を検証します。
オーナーの加速の口コミ・評判
アルテッツァぶっちぎってやった(^o^)/ 俺の方が若干アクセルオンのタイミング遅れたけど中間加速が全然違うね!!アルテッツァの3Sエンジンは馬力詐欺でしょ。たぶん実測160も出てないんじゃない?カタログ210は絶対嘘。
— Russian_Blue7 (@ren0386) 2011年9月20日
NAエンジンでは、大抵の車がカタログ馬力を下回る傾向にあります。
特にパワートレーンが長くなるFRでは駆動ロスが大きいため、公称馬力値に対して加速感が伴わない場合が多くあります。
さらに、アルテッツァは高回転のパワーバンドを外すと極端に加速が鈍ってしまうので、加速が悪いという評価が付き纏っています。
アルテッツァにも乗った!
速い
なんももっさりなんかしてないし
パワーバンド入ってからの加速は圧巻— 赤いライフの人 (@bicycle_ventura) 2018年1月4日
馬力詐欺で遅いといわれるアルテッツァですが、今となっては希少なものとなっている高回転型NAエンジンは、4500rpmからのパワーバンドに入ってしまえば非常に鋭く吹き上がります。
その加速性能は、乗用エンジンとはまったく違うものです。
初めてアルテッツァ本格的に乗ったしNA自体初めてだったけど普通に楽しい
正直街乗りとかちょっと遠出くらいならあんだけパワーあれば十分。
レガシィとかエボの後だと加速不足とかいろいろ感じるけど全然面白い pic.twitter.com/Ylnh4FAR6o— のすけ。 (@whale_cp9a) 2016年5月16日
スポーツセダンのアルテッツァとはいえ、ラリーのホモロゲーションモデルの三菱ランサー エボリューションなどのスポーツカーと比べると加速が見劣りするのは当然の結果。
ランエボは速いのか?加速性能から0-100km/h加速タイムまで解説!同じく通常ラインナップにターボモデルがあるスバル レガシィもまた、スバル インプレッサの技術フィードバックを受けるグランドツーリングカーです。
レガシィB4は速いのか?加速性能から0-100km/h加速タイムまで解説!インプレッサは速いのか?加速性能から0-100km/h加速タイムまで解説!対するアルテッツァはあくまで欧州車をライバルとした、コンパクトでスポーティな4ドアセダンであり、生粋のスポーツカーとして期待するのは少々筋違いです。
アルテッツァに対する、あまりの期待値の高さと、実際の性能の落差が、「アルテッツァは遅い」という評価の根底にあります。
特に「FR=スポーツカー=速い」という固定概念が過分に働いているものと推測されます。
動画で見るアルテッツァの加速
こちらは、市販のボルトオンターボキットを取り付けたアルテッツァの0-100km/h加速動画。タイムはおよそ6秒ほどで、生粋のスポーツカーに方を並べるほどのタイムをマークします。
高圧縮比とローブーストターボの相性は抜群で、アルテッツァの弱点である低・中速トルクを補いながら、高回転まで鋭く吹き上がるエンジンに生まれ変わります。
さらにアルテッツァのシャシーは、ターボの大幅なパワーアップを受け止める優れた性能を備えているため、チューニングベースとして最適なのです。
なおNAエンジンのチューニングについては以下の記事で詳しく解説しています。興味のある方はこちらもご参照ください。
NAエンジンのおすすめチューニングとその順番!馬力/トルク/パワーアップも可能?!アルテッツァの加速性能を他の車と比較
トヨタ アルテッツァと同年代・同価格帯の車を比較します。
アルテッツァと同じように、実績ある名エンジンにチューンが加えられ搭載される、4ドアセダンの2台をライバルとして設定し加速性能を比較します。
ホンダ アコード ユーロR(CL7)
VTECエンジンとは、ホンダを代表する高回転型NAエンジン。(エンジンの詳細は以下の記事をご参照ください。)
VTECエンジンとは?仕組み/構造は?搭載車はバイクにもあり?!欧州スポーツのセッティングが施され、2000年に設定されたホンダ アコードのユーロRというグレードには、2.2LのVTECエンジンが搭載されます。
バルブタイミングの位相を可変させるだけのアルテッツァの3S−GEに対して、高回転でレーシングハイカムのバルブリフト量に可変させるアコードのH22A VTECエンジンは、200ccの大きな排気量も相まって、最高出力220PS/7,200rpm。
最大トルク22.5kgf·m/6,700rpmのスペックを発揮。0-100km/h加速タイムでは、アルテッツァを大きく引き離す6.5秒をマークします。
しかし、アコード ユーロRのやや大きな車体に、FFのみの駆動方式は、スポーツというよりはグランドツーリング向き。
ワインディングや自然なハンドリングを楽しみたいのであれば、コンパクトFRのアルテッツァをおすすめしますが、優れた性能を発揮する高回転型NAエンジンの4ドアセダンをお探しであれば、VTECエンジンを搭載したアコード ユーロRがおすすめです。
なおホンダのアコードの中でもアコードハイブリッドについては、以下の記事で加速性能を解説しています。興味のある方はこちらもご参照ください。
アコードハイブリッドの加速性能を解説!0-100km/h加速タイムはどのくらい?日産 プリメーラ 20V(P12)
地味な存在ですが、実は隠れた名車の日産 P12プリメーラ。
2001年にフルモデルチェンジを果たした日産 プリメーラは、新型エンジンを搭載した次世代ミドルサルーンとしてデビューしました。
新型エンジンとは別に、日産 サニーからシルビアまで古くから幅広い日産の車種を支えてきたSR20エンジンに6速MTを組み合わせた、20Vというスポーツグレードが設定され、その成り立ちはトヨタ アルテッツァによく似ています。
可変バルブタイミング機構が追加され全回転域にわたり出力強化されたNAエンジンは、204PS/7,200rpm、21.0kgf・m/5,200rpmを発揮するSR20VEエンジン。0-100km/h加速タイム8秒弱。駆動方式はFFと4WDが用意されます。
アルテッツァに加速性能では及ばないものの、低回転から高回転までフラットトルクで扱いやすいエンジン特性と、静粛性の高いボディはスポーティでプレミアムなミドルサルーンとしては一級品。
アルテッツァよりも車としての完成度ははるかに高いものに仕上げられています。
アルテッツァは安価に買える、いまや希少なコンパクトFRスポーツセダンとしておすすめしますが、P12 プリメーラ 20Vは玉数が少なくさらに希少。中古車で見つけたら間違いなく買いたいスポーツセダンです。
他にも加速性能について解説している記事がございますので、興味のある方はこちらもご参照ください。
アリストは速いのか?加速性能から0-100km/h加速タイムまで解説!フェアレディZの加速性能を解説!0-100km/h加速タイムはどのくらい?