ハイブリッドカーはエンジンと電気モーターの2種類の動力源を持つ車で、その特徴は燃費が従来の車より大幅に改善していることです。
ハイブリッドカーと一口に言っても、そのシステムにはさまざまなタイプがあるのですが、その中に「2モーターハイブリッドシステム」というものがあります。
今回は2モーターハイブリッドシステムについてご説明します。
2モーターハイブリッドシステムとは
ハイブリッドシステムとは、ハイブリッドカーの電動モーターの走行システムのことを指し
- モーターでの車の走行
- 駆動用バッテリーへの充電機能
の2種類の機能を持ちます。
ハイブリッドシステムの機能
ハイブリッドカーは燃費の向上のためにエンジンの燃料消費量を抑えるシステムを搭載しており、それがハイブリッドシステムです。
ハイブリッドシステムについては以下の記事で詳しくご説明していますが、基本的にはエンジンが非効率な部分をモーターの走行で補うことによってエンジンを一部停止させ、その間の燃料消費を無くすことで燃費を向上させます。
ハイブリッドシステム/方式の種類一覧!各メーカーの違いを比較してわかりやすく解説!モーターが使用する電力は、車の走行エネルギーのロスを発電機が電気エネルギーとして回収して生み出しており、ハイブリッドカーの場合は外部から充電は行いません。
そのためハイブリッドカーにはモーターでの走行機能と、その電力を生み出す発電機能が必要不可欠で、発電機能もモーターを逆回転させて発電機として利用することで生み出しています。
ハイブリッドシステムは基本的にこの機能を持つ構造のことを指しますが、その構成部品などにはいくつもの種類があります。
そのうちの1つが2モーターハイブリッドシステムで、比較的燃費性能の高いシステムとなっています。
2モーターハイブリッドシステムとは
2モーターハイブリッドシステムはその名の通り2つのモーターを備えたシステムで、そのモーターは走行用モーターと発電用モーターの2種類に分かれています。
2モーターハイブリッドシステムの特徴は
- 走行用
- 発電用
でモーターの役割が完全に分かれていることです。
後述でご説明する1モーター式のハイブリッドシステムは走行も発電も1つのモーターで行っていますが、そのデメリットとして走行と発電を同時には行えません。
ですが2モーターシステムなら走行と発電のモーターが別れているので、走行中に状況に応じて発電にも即時に切り替えることができ、高い効率を発揮することができます。
このシステムの2つのモーターはどちらもエンジンおよび車軸と繋がっており、必要に応じて動力を分割したり切り替えたりする必要があります。
ハイブリッドシステムの中核はモーターのみによる走行で、その間はエンジンは走行には使わないことで燃費を向上させます。
ですが速度が上がったりすればエンジンとモーターを併用した走行が必要なので、その時は
- エンジン
- 走行用モーター
- 車軸
を接続します。
また発電時は発電用モーターへと車軸からの反力をスムーズに接続する必要があるので、走行モーターとの接続を切り替えの速さが2モーター式の大きな特徴となります。
それを実現する構造は何種類かありますが、それについては後ほどご説明します。
2モーターと1モーターとの違い
2モーターハイブリッドシステムと1モーターハイブリッドシステムの違いはモーターの搭載数にありますが、それによってシステムは大きく変わってきます。
1モーター式のハイブリッドシステムは、1つのモーターで走行も発電も行わないという大変な点はあるものの、2モーター式よりも構造が簡単で車に組み込みやすい特徴があります。
1モーター式ではモーターをエンジンとトランスミッションの間に搭載することが多いですが、その際エンジンやトランスミッションは既存のエンジン車の構造を流用できることが多く、比較的車の改造範囲が少なくて済みます。そのため車種展開に対しては有利です。
2モーター式は2種類のモーターを組み込む関係で、システムが完全にハイブリッドシステム専用となり、とくに従来の車でトランスミッションが位置していた所に、2つのモーターと動力切り替え機構を搭載しています。
また一般的な変速ギアを持たないシステムが多く、
- モーター
- 動力伝達
- 切り替え機構
のみの構造になります。
エンジン自体は専用である必要はありませんが、2モーターハイブリッドシステムは低燃費性能を追求している車種が多く、ハイブリッド車専用の高効率エンジンが採用されることが多いです。
なおハイブリッドシステムにはモーターのほかにも
- 駆動用バッテリー
- インバーター
といった電動部品もありますが、これらは2モーター式か1モーター式かでの差はあまりなく、電圧や交流式、直流式などシステム自体の差によってかわってきます。
インバーターについては以下の記事で取り上げているので、興味のある方はこちらもあわせて参考にしてみてください。
ハイブリッド車のインバーターとは?役割と故障時の修理/交換についてまで全て解説!2モーターハイブリッドシステムのメリット
2モーターハイブリッドシステムのなによりのメリットは、2つのモーターとエンジンを車の状態に応じて柔軟に切り替えることのできる点にあり、その細かい制御を行うことで高い効率を出せる点にあります。
2モーターハイブリッドシステムの制御は非常に細かく走行状態にあわせて制御されており、まさにメーカーの腕の見せ所なのですが、大枠で捉えると次の2つの走行状態によってモーターを切り替えています。
2モーターの走行状態
2モーターシステムにおいて
- 発電用モーターを「MG1」
- 走行用モーターを「MG2」
とした場合、車が走行している状態において作動して主にいるのはMG2のほうです。
車の走行時には基本的に発電は行っておらず、MG2によるEV走行か、もしくはエンジンを作動させてのフル走行状態となります。
EV走行時にはエンジンは完全停止の状態になっており、このときは燃料消費がストップするので大きく燃費を向上させることが可能となります。
またエンジン走行においてはMG1が重要な役割を果たしており、変速機構(トランスミッション)の代わりをモーターで行っています。
MG1とエンジンを接続するとエンジンの動力で発電されるわけですが、この発電を調整することでエンジンへかかる負荷を調整し、エンジンの回転数制御を行います。
低速域で発電を行うことで通常の車の低回転域を作り出し、高速域ではMG1の発電を停止させて直接エンジンで駆動するようになります。
またこのときMG1で発電された電力は直接MG2で消費され、駆動力の一部として活用されます。
エンジン、MG1、MG2の協調制御を行うことで2モーターハイブリッドシステムではトランスミッションは不要となり、一種の無断変速機を搭載したことと同じになります。
トヨタなどではこの方式を「電気式無段変速機」と呼んでおり、スペック上などでもそう記載されています。
2モーターの発電状態
ハイブリッド車のモーターが利用する電力はすべてMG1が発電していますが、その発電は主に車の減速時に行われます。
従来の車は減速時にはブレーキを使って速度を落としますが、このときブレーキは摩擦によって走行エネルギーを熱エネルギーとして消費しており、見方を変えると燃料を熱エネルギーとして消耗していることになります。
そのためハイブリッドカーは減速する際に車軸とMG1を接続し、発電時の抵抗を利用して減速する「回生ブレーキ」という方式で主に発電を行います。
回生ブレーキだけで完全に停止までは行なえませんが、回生ブレーキを何処まで活用できるかが燃費を向上する上で重要です。
回生ブレーキによってMG1で発電された電力はMG2によるEV走行で利用され、エンジンを停止させることで燃費が向上します。
駆動用バッテリーの大きさにもよりますが、回生ブレーキでどれだけ発電ができるかがEV走行可能な距離を伸ばすことに繋がり、燃費性能を高めることになります。
このとき駆動軸とMG1は直結していますが、エンジンはクラッチなどによって切り離されることが多く、MG1の発電が効率的に行えるようになっています。
ただし車の始動時やアイドリング時などにはMG1とエンジンが接続される場合があり、停車時に発電が必要な状況においてはエンジン動力でMG1を発電させます。
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2モーターハイブリッドシステムは燃費性能に対して大きな効率の高さを誇りますが、その一方でデメリットもいくつかあるシステムです。
システムの複雑さ
まず2モーターハイブリッドシステムのデメリットは、前述でも少し触れたようにシステムが複雑、かつ専用システムとなる点です。
2モーターハイブリッドシステムは1基のエンジンと2つのモーターを搭載する関係から部品の構成要素が多く、搭載スペースが必要になります。
またトランスミッションは不要ですが、そのスペースはすべてモーター関連のシステムが占めるので、複雑な構造となりがちです。
また1モーター式と比較したとおり、2モーター式は専用システムと構造をもたせることになり、車種展開の面で不利となることが多いです。
この点は2モーターハイブリッドシステムを量産車初めて採用したトヨタが経験したことであり、当初は車種が伸び悩んでいました。
現在では車種展開はかなり多くなってきましたが、普及に時間がかかったことは確かです。
走行性能への影響
2モーターハイブリッドシステムは燃費を大幅に向上させることができますが、一方で車の走行性能に対して悪影響が出ることが多いです。
2モーター式は機構上エンジンと駆動軸を完全に切り離せる時間が少なくなり、エンジンでモーターを動かしたり逆にモーターでエンジンの抵抗を生んだりする必要があります。
このことから車の高速域で性能を高めようとするとハイブリッドシステムの負荷が大きくなるデメリットがあり、一般的に走行性能が多少犠牲になります。
このときエンジン回転数などを上げれば当然走行性能は上がりますが、そうなると今度はエンジンでの燃料消費量が増加するので、ハイブリッドカーの最も大きなメリットである燃費性能を犠牲にすることになってしまいます。
またエンジン自体のセッティングも燃費性能を重視した効率的なものが多く、そもそもエンジン出力が抑えめとなっている車種も多いです。
このことから2モーターハイブリッドシステムの車は走行性能がいまいちという評価がある場合も多いですが、このあたりは車種ごとの燃費と出力のバランスのとり方次第ではあるので、車種によってセッティングを調整している場合がほとんどです。
ハイブリッド制御の難しさ
2モーターハイブリッドシステムは前述した通り
- MG1
- MG2
- エンジン
の3つを車の走行状態に合わせてきめ細かく制御する必要があり、その制御システムの構築は高い技術力が必要になります。
2モーターハイブリッドシステムを効率的に作動させるためには、刻一刻と変わる車の走行状態にマッチする適切な制御が不可欠です。
ですがそれを簡単に構築できるはずはなく、自動車メーカーの開発の中でももっとも難しい面の一つです。
技術の向上には基礎研究の確かさに加えて経験の多さも非常に重要であり、とくに市場での走行実績とそのフィードバックの積み重ねがなくてはなりません。
そのため新規参入するにはハードルの高い技術といえ、いくつかの限られたメーカーしか2モーターハイブリッドシステムは採用できていないのです。
特許関係の縛り
2モーターハイブリッドシステムは技術的な難しさも大きなデメリットですが、それ以外に特許関係でも縛りが大きな技術で、これも新規参入する際の障害です。
2モーターハイブリッドシステムはトヨタが量産車として初めて採用したシステムで、その開発段階でさまざまな関連技術の特許を取得しています。
またホンダも同時期に開発を行っていたためトヨタとは別の特許を多く取得しているのですが、トヨタとホンダがコアな技術の特許をほぼ独占している状態なので、その他のメーカーがそれを利用するためには特許料が発生します。
一般的に車の開発時には他社技術の特許は避ける必要があり、コストを抑えるためには必要不可欠な点です。同じ技術を採用しても特許料でコスト増加してしまえば、市場での競争力が低下してしまうからです。
そのため他のメーカーは1モーターハイブリッドシステムで独自の構造を採用することがほとんどで、現在あえて2モーターハイブリッドシステムを新規採用するメーカーは見当たりません。
2モーターハイブリッドシステム採用車種
2モーターハイブリッドシステムは前述したように技術的、特許的な問題が多く、現在採用している乗用車メーカーはトヨタとホンダのみとなっています。
この2メーカーはそれぞれ独特な構造のハイブリッドシステムを構築しており、高い燃費性能を武器に競争力を高めています。
トヨタ:THS
トヨタの2モーターハイブリッドシステムはTHS(トヨタハイブリッドシステム)と呼ばれており、2つのモーターと遊星歯車装置を組み合わせた独特なシステムを構成しています。
THSの基本構成は世界初の量産型ハイブリッドカーであるトヨタ プリウスで確立されており、現在最新のTHS-Ⅱシステムに至るまで基本構造が変わっていません。
THSでは
- 発電用モーター
- 走行用モーター
- エンジン
- 駆動軸
をひとつの遊星歯車装置で組み合わせてあり、ギアの構成部分は非常にコンパクトなシステムとなります。
遊星歯車装置の説明は以下の記事で詳しくご説明していますが、歯車の繋がり方を切り替えることで正転、逆転などを制御することができ、MG1、MG2の接続とともに細かな制御を可能としています。
トヨタのハイブリッドシステムの特徴!車の種類一覧と人気車種3つ!口コミ/評判はいかに?!このTHSには燃費を重視したアトキンソンサイクルエンジンが組み合わされることが多く、このことによってプリウスを始めとするトヨタのハイブリッドカーは世界最高クラスの燃費性能を持っています。
その反面前述したように走行性能に不満があることが多かったですが、大型車に限っては「マルチステージハイブリッド」という自動変速機を組み合わせることで走行性能を高めるTHSも登場しています。
THSは2モーターハイブリッドシステムとしては世界的にも実績が高く、最も代表的なハイブリッドシステムとなりました。
プリウス以外にも
- アクア
- レクサスの各車
- ミニバン系の車種
にも車種展開が拡大しており、トヨタの車種ラインナップの中で大きな位置を占めています。
またトヨタと提携関係にあるスバルやダイハツなどにも同システムが提供されており、それぞれ独自の名称で車種展開を進めています。
なおプリウス、アクアについては以下の記事でも取り上げているので、興味のある方はこちらもあわせて参考にしてみてください。
プリウスの口コミ/評判!価格から外装や走行性能まで全てチェック!アクアの口コミ/評判!価格から外装や走行性能まで全てチェック!ホンダ:SPORT HYBRID i-MMD
ホンダはトヨタとほぼ同時期に2モーターハイブリッドシステムを登場させましたが、そのハイブリッドシステムがIMA(Honda Integrated Motor Assist System)です。
ただ従来のIMAは1モーター式のシステムがメインで、その後継技術として登場したシステムのひとつが、最新の2モーター式ハイブリッドシステムであるSPORT HYBRID i-MMD(SPORT HYBRID Intelligent Multi Mode Drive)です。
SPORT HYBRID i-MMDはTHSと同じく発電用、走行用の2種類のモーターを持っていますが、大きく違う点として遊星歯車装置がなく一般的な減速装置とクラッチで構成されます。
このことからTHSより構造が簡単で、コスト的なメリットがあるのがこのシステムの特徴となっています。
またSPORT HYBRID i-MMDは走行時のモーターとエンジンの使い方がTHSとは大きく違っており、低速〜中速域の一般的な走行条件ではすべて走行用モーターだけが駆動軸に接続されています。
つまりこの走行条件ではEVと同じ走行感覚を持つ車となっているのがTHSとの大きな違いで、モーターの高いトルクを存分に活用できます。
ですがモーター走行には発電が必要となりますが、このときエンジンは発電用モーターのみに接続されていて、エンジンで発電した電力で走行用モーターを動かしていることになります。
SPORT HYBRID i-MMDではエンジンでの走行は高速領域に限られており、高速道路の走行時などにはエンジンおよび走行用モーターが駆動軸に繋がれてハイブリッド走行状態となります。
このときエンジンは高速走行にセッティングされた減速機と接続されており、エンジンの変速機構は不要となっています。
このことがTHSのような遊星歯車装置を不要とした中核技術で、トヨタと差別化したホンダの最新技術です。
SPORT HYBRID i-MMDはホンダのハイブリッド車の代表である3代目インサイトに採用されている他、
- アコード
- ステップワゴン
- CR-V
などホンダの中型車に採用が増えてきています。
ステップワゴンの口コミ/評判!価格から外装や走行性能まで全てチェック!CR-Vの口コミ/評判!価格から外装や走行性能まで全てチェック!他社の動向
2モーターハイブリッドシステムは現在トヨタとホンダしか採用していないのですが、その他の数多くの自動車メーカーは総じて1モーター式ハイブリッドシステムを採用しています。
それら他社の動向を軽くご説明しておきましょう。
他の国内メーカーの動向
国産メーカーではほかに日産やスズキがハイブリッドカーを積極的に投入していますが、この2社が採用するのは1モーター式でエンジンとトランスミッションの間にモーターを挟み込んだタイプのシステムです。
2モーターハイブリッドシステムより軽量で低コストというメリットはありますが、燃費性能では一歩トヨタやホンダには及ばないのですが、その最大のメリットはやはり特許関係の回避にあります。
両社ともこれによってトヨタやホンダとの競争力を確保しており、一層競争は激しくなっています。
また日産は近年「e-power」という新しいハイブリッドシステムを登場させており、これはエンジンは発電のみに特化して、走行は専用のモーターのみで行うというハイブリッドシステムです。
このシステムでも発電用と走行用の2つのモーターがあるので2モーター式にも見えますが、エンジンが走行に関与せず発電機付きの電気自動車といった仕様なので、「レンジエクステンダーEV」という名称が一般的です。
なお日産のハイブリッドについては以下の記事でさらに詳しく解説しているので、詳細まで知りたい方はこちらもあわせて参考にしてみてください。
日産のハイブリッドシステムの特徴!車の種類一覧と人気車種2つ!口コミ/評判はいかに?!海外メーカーの動向
海外メーカーについても1モーター式のハイブリッドシステムがほとんどを占めており、2モーター式を採用するメーカーは現在ではほぼ無いと言っても良いでしょう。
海外メーカーはハイブリッドカーの開発に関して国内メーカーより後発であり、前述の特許関係を考えると1モーター式の採用が自然な流れとなりました。
各社独自の構造とシステム構成をもったハイブリッドカーを登場させており、その種類は年々増加しています。
また欧州メーカーは簡易的でコストメリットに特化したマイルドハイブリッドシステムというものの採用を拡大していますが、これも一種の1モーター式ハイブリッドシステムです。
マイルドハイブリッド(MHEV)とは?仕組み/構造は?搭載車の燃費は悪いのか解説!海外メーカーのハイブリッドカーは燃費性能に関してトヨタなどには及ばないものの、そのかわりに走行性能の高さを重視しており、欧州の走行環境にあわせたハイブリッドカーが多くなっています。