現在日本でエコカーとして認定されている車種のひとつに「クリーンディーゼル車」があり、かつて問題となった排気ガスの汚さが解消されています。
しかしそこに不可欠なのが「尿素水」もしくは「アドブルー(AdBlue)」というもので、現在殆どのクリーンディーゼル車には欠かせないものとなっています。
今回はそんな尿素水とアドブルーについてご説明します。
尿素水/アドブルーとは
クリーンディーゼルエンジンに尿素水やアドブルーといったものが必要なのは、排気ガス中の有害物質のひとつである「NOx(窒素酸化物)」を処理する「尿素SCR触媒」という部品が搭載されているからです。
尿素SCR触媒の仕組みなどについては後ほどご説明しますが、このシステムはNOxの処理のために尿素を必要とするもので、その尿素は尿素水として車に搭載されます。
尿素水/アドブルーについて
尿素水はその名の通り尿素を含んだ水溶液を指しますが、クリーンディーゼル車用の尿素水は専用の高純度尿素水となっており、その商品名が「アドブルー(AdBlue)」です。
クリーンディーゼルエンジンとは?メリット2つとデメリット3つ!仕組み/構造の特徴まで解説!アドブルーというのは物質の名前ではなく、先進を意味する「Advanced」と、青空をイメージさせる「Blue」を組み合わせた造語で、エコカーの持つ最新の環境イメージを狙った商品名です。
アドブルーという商品名はメルセデス・ベンツやBMWなどの海外メーカーが属するドイツ自動車工業会の商標ですが、既に自動車用尿素水の名称としても一般化しており、日本国内でも同じ名称が使われます。
アドブルーはその成分も規定されており、「尿素32.5%と純水67.5%を混合した尿素希釈水」となっており、不純物が極端に少ない高品質の尿素水です。
尿素SCR触媒の働き
アドブルーを使用する尿素SCR触媒はディーゼルエンジンの触媒の中でも複雑な処理をするシステムで、処理の難しいNOx(窒素酸化物)の効果的な処理には欠かせません。
NOxはエンジン内部の燃焼エネルギーによって空気中の窒素と酸素が結びついた物質で、高い燃焼温度のときに生み出されます。
NOxが大気中に排出されると光化学スモッグや酸性雨の原因となったり、人体に有害な物質であるため、現在では排出量が厳しく制限されています。
ですがNOxを無害なN2(窒素)に変換するには酸素を取り除く還元反応が必要で、ディーゼルエンジンから排出される有害物質の中では唯一還元反応が必要な物質です。
尿素SCR触媒の働きは2段階に分かれており、その中でアドブルーの働きはNOxと尿素を反応させてNH3:アンモニアを作り出すことです。
触媒種類 | 処理方法 ※化学式ではありません |
尿素SCR触媒 | ・NOx+尿素水(アドブルー)→NH3(アンモニア) ・NH3+O2、NOx→N2(窒素)+H2O(水) |
尿素の化学式は「CH4N2O」となっており、炭素、酸素、窒素、水素が合体した有機化合物です。
この尿素をアドブルーの形で排気ガス中に噴射すると化学反応が起こり、NOxの一部が還元されてアンモニア(NH3)が生成されます。そしてアンモニアは残りのNOxと反応を起こし、無害なN2(窒素)とH2O(水)、O2(酸素)へと変換され、完全に無害な物質へと処理されるのです。
実はNOx処理に必要なものはあくまでもアンモニアであり排気ガスに直接アンモニアを噴射しても同様の効果が得られるのですが、アンモニアは人体に有害な物質なので、車への搭載には適していません。
そのため人体に無害な尿素を搭載するシステムとなっており、尿素によってアンモニアを生成する必要があるのです。
なおディーゼルエンジンの仕組みについては以下の記事でさらに詳しく解説しているので、詳細まで知りたい方はこちらもあわせて参考にしてみてください。
ディーゼルエンジンとは?仕組み/構造を簡単にわかりやすく解説!尿素の特徴
さて「尿素」という名前から真っ先に連想するものといえば人体から排出される尿ですが、たしかに尿素は尿に含まれているものの全く別のものです。
実は尿素は単体では全く無害な物質で、無色透明、無味無臭です。アドブルーも見た目は普通の水と変わらず、においもなく、また肌に触れても全く問題はありません。
むしろ尿素水には保湿効果などもあり、化粧品や薬品などにも使われているほどです。
人間の尿にも尿素が含まれているのですが、これは実は体内でさまざまな代謝によって生成されたアンモニアを無害化して生まれたもので、肝臓でアンモニアから尿素に変換されています。
ですが人体は全てのアンモニアを尿素に変換できないので、人間の尿の中にはアンモニアが混ざっていることで、あの独特の臭いがしてしまいます。
また尿の中にはほかにもさまざまな物質が混ざっており、アドブルーのような純粋な尿素水ではなくなってしまっています。
日本語で尿という名前がついてしまっているのでどうしても尿素に悪いイメージが付いてしまっているのですが、尿素や尿素水は扱うのに全く気になるような要素はないのです。
ディーゼルエンジンでの尿素水/アドブルー補給の必要性
現在のクリーンディーゼルエンジンの多くは、排気ガス規制の厳しさから尿素SCR触媒を搭載する必要があり、アドブルーを貯めておくための尿素タンクが車に必要になります。
尿素タンクに貯蓄されたアドブルーは専用のポンプによって排気管へと送られ、排気管の途中に設置されているアドブルーインジェクターに繋がります。
インジェクターからはエンジンが動いている限り常に一定量のアドブルーが噴射されており、少しずつ消費されていきます。
その消費量はほんのわずかなので、エンジンの燃料ほど消費量は多くないのですが、それでも消費していけばそのうちアドブルーはなくなりタンクが空となります。
その場合にはタンクへのアドブルーの補給が必要で、タンクが空の状態では車のセンサーが検知してエンジンを停止させてしまいますので、基本的にアドブルーが不足したら車は動きません。
タンクが空になるまでの走行距離は車によって違いますが、およそ走行距離1,000km〜1,500kmぐらいで補給が必要となります。
補給が必要な状態になると運転席の警告灯が点灯するので、ドライバーが積極的にタンクを確認する必要はありませんが、警告灯が点灯した場合には即座に補給が必要です。
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尿素水/アドブルー補給の必要ないディーゼル車
さて近年の自動車用ディーゼルエンジンはほぼ全てがクリーンディーゼルエンジンとなり、排気ガス規制の強化によってほとんどのメーカーがクリーンディーゼルエンジンに尿素SCR触媒を導入しています。
ですが世の中には尿素SCR触媒以外でNOxの処理を行う方法もあり、次のようなものが存在します。これらはアドブルーが不要なので、補給の手間もありません。
NOxトラップ触媒
NOxトラップ触媒は尿素SCR触媒の前に主に使われていた触媒で、NOx専用の触媒であるのは変わりませんがシステムが簡素です。
NOxトラップ触媒は触媒の内部に一度NOxを捕集(吸蔵)する特徴があり、尿素SCR触媒とはシステムが大きく違います。
捕集されたNOxは、還元処理ができる運転条件の時にまとめて無害化されるシステムとなっており、そこにアドブルーなどは必要ありません。
そのため尿素SCR触媒よりコスト面では大きなメリットがあるため、10年前ぐらいまではNOx処理用の触媒と言えばこのNOxトラップ触媒でした。
ですが処理能力に関しては尿素SCR触媒に一歩及ばないというデメリットもあり、世界的な排気ガス規制の強化に伴ってNOxトラップ触媒は次第に尿素SCR触媒に置き換えられているのが現状です。
国産車でも三菱 デリカD:5のディーゼルエンジンモデルは長らくNOxトラップ触媒を使っていましたが、2018年12月のビッグマイナーチェンジから尿素SCR触媒への変更がなされており、排気ガス規制がより厳しくなったことがわかります。
デリカD:5の口コミ/評判!価格から外装や走行性能まで全てチェック!現在でも海外では一部の車種にはNOxトラップ触媒が使われており、尿素SCR触媒より安価で使いやすいのですが、今後は尿素SCR触媒への置き換えが進むでしょう。
マツダのSKYACTIV-D
尿素SCR触媒を使わないもうひとつの流れとしては、マツダが開発したクリーンディーゼルエンジン「SKYACTIV-D」があり、尿素SCR触媒どころかNOxトラップ触媒も不要という画期的なエンジンです。
SKYACTIV-Dはマツダが社運をかけて開発したエンジンで、それまでのディーゼルエンジンの常識を覆してエンジンの圧縮比を大きく下げていることが特徴です。
詳しくはSKYACTIV-Dエンジンの以下の解説記事でご説明していますが、この特徴はエンジンで発生するNOxの生成量が大幅に下がるという大きなメリットがあり、このエンジンに限り現在はNOx処理の触媒が不要となっています。
スカイアクティブD(クリーンディーゼル)とは?欠点2つ!不具合や故障が多く耐久性に難あり?!SKYACTIV-Dは触媒が一種類不要という点から大きなコストメリットも持っているエンジンで、現在ではマツダの重要な主要ユニットの一つになっています。
ですが反面、もうひとつの排気ガス中の有害物質であるカーボンの生成は多くなってしまい、その処理用の触媒やエンジン制御技術に負担がかかります。マツダもこの点には苦しんでおり、何度もリコールが起こっています。
しかしアドブルーの補給が不要というのは他車のディーゼルエンジンに比べると、ドライバーにとって大きなメリットです。
尿素水/アドブルーの補給のやり方
アドブルーはディーゼルエンジン車に乗る人でなければ必要性がないので、どこで買えるかなど知らない人も多いでしょう。
ですがじつは割といろいろなところで購入することができ、その場で補給できるところも数多くあります。アドブルーを必要としていたのはもともと商用の大型トラックで、大型のディーゼルエンジンほど必要性が高まります。
そのためアドブルーの補給できる場所は大型トラックが立ち寄れる場所が多く、まずはガソリンスタンドがその最たるものです。
とくに郊外型の大型のガソリンスタンドにはほぼ確実にアドブルーの補給ができる体制が整っています。
その他には最近は大手の自動車用品店やディーラーなどにも準備されており、比較的どこでもアドブルーが補給できるようになってきています。
アドブルーの価格は上記の店舗などでは1Lで90円〜100円程度で販売されており、乗用車系の車種では警告灯に従えばおよそ10L前後の補充が必要です。
つまり一回あたり1,000円〜2,000円程度の費用で済むもので、数千キロ毎に交換するだけなのでそんなに大きな費用負担とはなりません。
大型トラックではもっと必要量が多く補充量も多いですが、個人の場合はあまりかんけいありませんね。
なおディーゼルエンジンの維持費については以下の記事で詳しく解説しているので、詳細まで知りたい方はこちらもあわせて参考にしてみてください。
(クリーン)ディーゼルの維持費は安いかハイブリッド、ガソリンと比較!お得か高いか決着!尿素水/アドブルーを自分で補給する方法
アドブルーは基本的には上記のように外のショップで補充するのが一般的で楽ですが、自分でも補給することは可能です。
自分で購入するアドブルー
アドブルーは化学製品としては非常に安全なもので、一般人でも購入することが可能です。自動車用品店や専門店などでも販売されていることがありますが、基本的にはネットで購入することが多いでしょう。
個人で購入するアドブルーは比較的少ない量での小売となっており、価格は1Lあたり150円〜200円と店舗で補充する場合と比較すると少し割高です。
商品購入時の基本ではありますが一回に購入する量が多いほど1Lあたりの単価は下がりがちになっており、10L購入するのと20L購入するのではずいぶん価格が違います。
ですが単価を下げようと思って大量購入してしまうと、それを保管しておく場所が必要なので適度な量にしたほうが良いでしょう。
補充の作業自体は難しいことはなく、乗用車ではエンジンルーム、トラックでは車体横などに設置されているアドブルータンクのフタをあけて、タンクに示されている上限量まで入れるだけです。
重たいの液体を持ち上げて補充することになるので、落としたり体に無理がかからないように注意しなければなりませんが、難しい作業ではありません。
個人でできる自動車のメンテナンスとしては非常に楽な作業なのですが、基本的にはショップにお願いするほうが楽ですね。
自分で交換する際の注意点
自分でアドブルーを交換する場合には気をつけなくてはならない点もあり、へたなことをすると車を破損させたり故障させたりする原因にもなります。
アドブルーは決められた商品をそのまま補充すれば全く問題ないのですが、素人考えで次のようなことをしてしまうと問題です。
水などで薄めない
アドブルーは一見ただの水で、無色透明な液体です。そのためアドブルーが減ってきたら水、とくに水道水を入れてしまう人もいるようなのですが、これは大きな問題です。
アドブルーは尿素32.5%と純水67.5%の水溶液ですが、この純水というのは不純物を全く含まない高純度の水であり、アドブルーという尿素水はかなり高純度、高品質なものなのです。
ですが水道水にはご存知のようにカルキ(塩素)が混ざっており、他にも様々な物質が混在しています。これらがアドブルーに混ざって排気管内に噴射されたりすれば、その不純物によって排気管の腐食や触媒の破損、アドブルー配管やインジェクターなどの故障にもつながってしまいます。
またもし純水だけを補充したとしても、その場合は尿素の割合が低くなってしまってNOxの浄化性能が大きく下がってしまいますので、決して水だけを補充するようなことはしてはいけません。
アドブルーの単価はそこまで高いものではありませんので、ケチらずきちんとした品質のものを補充しましょう。
間違っても尿を入れてはダメ
これはもっとダメな例なのですが、「尿素水」という名前に引っ張られてしまったことからアドブルータンクに尿(おしっこ)を入れてしまう人がいるようです。普通は信じられませんが実際にやってしまっている人もいると、ネットなどでは噂になっています。
乗用車系ではそういった行為は難しいのですが、トラック系の車種では車の下側にアドブルータンクがあるので、直接尿を入れようとすれば入れられてしまいます。
ですが当然ながら尿には水道水以上に不純物が多く混ざっているのでその悪影響は大きく、車の部品を故障させる確率は大幅に上がってしまいます。
アドブルーに対する認識が少ないのは仕方ないとは言えますが、それでも余計なことをせず決められたものを決められた量入れるだけにしましょう。
なおディーゼルエンジンについては以下の記事でも取りあげているので、興味のある方はこちらもあわせて参考にしてみてください。
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