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可変圧縮比エンジンとは?仕組み/構造は?メリット2つデメリット2つ!

自動車用の内燃機関エンジンは年々新しい技術で進化していますが、近年新たな技術を実用化した「可変圧縮比エンジン」が登場しました。

夢の技術の一つでありながら長年実用化は難しいとされていましたが、日本の日産自動車が世界初採用したのです。

今回はそんな可変圧縮比エンジンについてご説明します。

可変圧縮比エンジンとは

可変圧縮比エンジン

可変圧縮比エンジン(Variable Compression Ratio:VCRエンジン)とは、その名前の通りエンジンの圧縮比を変化させることができるエンジンで、2016年に日産自動車が世界に先駆けて実用化した技術です。

可変圧縮比エンジンのコンセプト自体は1920年ごろには既に登場していましたが、それを実現できる技術力と工業力がこれまで追いついておらず、長年研究が続けられてきたエンジンです。

これまで日産のほかにプジョーシトロエンやボルボ、ルノーなどが研究を続けていた他、ヤマハやスウェーデンのサーブなどが実験用エンジンを作ってきました。

そのコンセプト自体はわかりやすく実現性が高いものに見えるのですが、実際に実用化となるとなかなか高度な技術が必要なものとなっています。

ではそんなコンセプトや構造についてご説明していきましょう。

可変圧縮比エンジンのコンセプト

可変圧縮比という考え方はエンジンの設計上非常に理想的な面があり、多くの技術者が夢見てきたことでした。

内燃機関のレシプロエンジンには「圧縮比」という設計要件があり、これはピストンでシリンダー内の気体を圧縮する割合のことを指します。

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MEMO

例えばシリンダー容量が1,000ccのエンジンで、ピストンで押されて圧縮後に100ccになったとしたら、圧縮比は「1:10」もしくは簡単に「10」と表します。

一般的にレシプロエンジンの圧縮比は高ければ高いほど効率が上がることが知られており、圧縮比を上げればエンジンの出力やトルク、燃費などを向上させることが可能となります。

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ですが、特にガソリンエンジンの場合に圧縮比を上げすぎると、圧縮中に混合気内の燃料が勝手に燃焼を初めてしまう「ノッキング」と呼ばれる異常燃焼現象が起こるため、圧縮比にはある程度の制限がかけられてしまいます。

ガソリンエンジンはこれまで10程度の圧縮比が一般的で、それ以上あげるにはさまざまなノッキング対策技術が必要でした。

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ですがノッキングが起こる領域はエンジン負荷が高いときに限られており、負荷が低い領域だけに限ればノッキングの危険はないのです。

そのためエンジンの圧縮比を運転中に変更することができれば、負荷の低い領域では高い圧縮比で効率を高め、ノッキングの危険が高まる領域では圧縮比を下げることで、低負荷時から高負荷時まで高い効率を発揮できるというわけです。

このように考え方自体は非常にシンプルなものなのですが、これを実際のエンジンとして成り立たせるにはかなり高い技術力が必要です。

可変圧縮比のハードル

可変圧縮比エンジンを作るにはこれまで圧縮比が固定だった構造を変更する必要がありますが、それには高いハードルがいくつもあります。

エンジンの圧縮比を決めている要素は次のようなものがありますが、どれもエンジンの構造としては心臓部となります。

  • シリンダー
  • ピストン
  • コンロッド
  • クランクシャフト

可変圧縮比とするためには、これらエンジンの出力軸であるクランクシャフトからピストンまで繋がっているどこかを可動させなくてはいけないのですが、これらの部分はエンジン内で最も大きな負荷を常に受けている部分です。

燃料の爆発によって出力を得ている箇所なので、爆発の圧力や衝撃、圧縮時の高い反力、振動などを受けており、また毎分数千回転という非常に多い回数の往復運動となっています。

こういった高い力がかかる部位は頑丈に設計しなくてはならず、その途中に可動部をもたせるというのはエンジンの信頼性を大きく損なう可能性のあるものです。

そのため長年開発がされているにもかかわらず実用化が出来なかったのは、実用エンジンとしての耐久性や信頼性の面に問題があったと言えるでしょう。

日産の可変圧縮比エンジンの構造

そんな難しい技術を量産車用エンジンとしてまとめたのが日産自動車の新型エンジン「MR20DDT」です。

MR20DDTは2.0Lの直列4気筒エンジンで、可変圧縮比システムに加えてターボチャージャーを組み合わせたダウンサイジングターボエンジンとなっています。

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これまで2.5L以上のV6エンジンを置き換えることを目指しており、2019年発売の「インフィニティ QX50」に初搭載されます。

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インフィニティ(Infinity)は日産が海外で展開する高級車ブランドで、QX50もこれまで3.0L以上のV6エンジンが搭載されてきました。

まずこの可変圧縮比エンジンの中核技術であるマルチリンク機構をご説明します。

可変圧縮比を可能にするリンク機構

日産の可変圧縮比の技術はコンロッドとクランクシャフトの接続部に仕組みがあります。

これまで直接接続されていたコンロッドとクランクシャフトの間にマルチリンク機構をもたせてあり、このリンクを電動モーターで回転させることでコンロッドとクランクシャフトの比が変わるので、ピストンヘッドの位置を上下させることができます。

このピストンヘッドの上下によって圧縮比を変更することが出来、日産のシステムでは圧縮比8~14まで可変できます。

言葉だけではマルチリンク機構の動きがよくわかりませんので、今回はこのシステムの動きが分かる動画をご紹介します。


クランクシャフトには大きなリンク装置がついており、その一端にコンロッド、もう一端にはエンジンの下側につながるロッドが伸びています。

このロッドには電動モーターが接続されており、モーターでこのロッドを上下すると、クランクシャフトを中心としてリンク装置が可動し、反対側にあるコンロッドも上下されます。

この動きによってピストンの位置が上下するので、可変圧縮比エンジンが実現できています。

可変圧縮比エンジンの動きで動くピストンヘッドの位置は5mm程度ですが、この少しの動きでも圧縮比は大きく変わるのです。

可変圧縮比エンジンの効果

日産の可変圧縮比エンジンはこの効果によって圧縮比を8~14に可変することができますが、このことでエンジン性能には次のような効果があるとアナウンスされています。

日産の2.0Lの可変圧縮比エンジンは3.5L V6 NAエンジンに対して、

  • 最大トルク+10%向上
  • 燃費+27% 向上

の改善が見込めるとされており、これには可変圧縮比の効果だけではなくターボ化の効果も入っています。

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ですが燃費の改善効果は非常に高く、日産の次世代の低燃費技術の中核となるものです。

また数字に表れない点についても、運転中に自由に圧縮比を変えられるため、低速での加速と高速での耐ノッキング性を両立でき、低速から高速まで安定した走行が可能となります。

現時点でまだ搭載車種が発売されていないので走りの良さなどはわかりませんが、エンジンのセッティングによっては効率重視のエンジンにも走行性能重視のエンジンにもできるはずです。

可変圧縮比エンジンのメリット・デメリット

メリット、デメリット

可変圧縮比エンジンには前述したようなメリットがあるわけですが、その反面デメリットもいくつか見つけることが出来ます。

可変圧縮比エンジンのメリット

可変圧縮比エンジンのメリットは圧縮比の変更による点ということは説明してきましたが、日産のシステムには副次的なメリットがあります。

それはエンジンの振動低減効果で、本来振動の多い直列4気筒エンジンながら、V6エンジン並の低振動になっている点で、これはマルチリンク機構の効果によるものです。

これまでのエンジンではクランクシャフトとコンロッドが直結されているので、クランクシャフトの回転によってコンロッドは上下だけではなく左右にも多少振られます。

このことによってエンジンには左右の振動が生まれ、直4エンジンはこの振動が強いことがデメリットでした。

ですが日産の可変圧縮比エンジンは、中間リンクがあることでコンロッド自体はほとんど上下移動のみしかしないので、左右振動を減らせるのです。

またこの効果によりこれまで振動低減のために使われていたバランサーという部品が不要となり、エンジンの基本構造でバランサー不要なほど振動が少なくなるというのはなかなか画期的なことです。

可変圧縮比エンジンのデメリット

可変圧縮比エンジンはメリットの多い夢のエンジンではありますが、これまでのエンジンより複雑な構造を持っているため、デメリットもいくつかあります。

重量、コストの増加

可変圧縮比のシステムは高性能なエンジンが実現できる半面、部品構造は複雑となり、重量、コストの面ではデメリットとなります。

特にシステムの中核であるマルチリンク機構と、それを可動させるモーターは大きな体積を占めるもので、重量はかなり増加します。

可変圧縮比エンジンの図を見てもマルチリンク部は非常に目立つほど大きく、素人でも重たくなるのが分かるでしょう。

また部品点数が増加することでコストも増加しますので、性能向上の分価格に反映される可能性が高いです。

ですが前述したとおり可変圧縮システムの採用によってバランサーシャフトが不要になることは、このデメリットを打ち消す点になるかもしれません。

バランサーシャフトは振動低減には大きな効果がある一方で、長いシャフトとハウジングなどにより重量はかなり重たい部品なのです。

またコストにも大きく影響する上に、振動低減以外の効果が無いので燃費などには悪影響なのです。

こういったデメリットの打ち消し合いがうまく行けば、決して悪いシステムにはならないでしょう。

リンク構造の信頼性

これは可変圧縮比の構造的なデメリットではありますが、エンジンの中で最も負荷の高い箇所に設ける可動機構ですので信頼性の確保が特に大変です。

日産も可変圧縮比エンジンの開発では信頼性確保が最も難しかったと明かしており、日産だけではなくサプライヤーである日立と連携して実用可能な信頼性を確保したそうです。

しかしそれでも15年近い研究と量産開発に6年もの年数を欠けています。それほどまでに開発の難しい技術であり、日産以外のメーカーが実用化にまでこぎつけるにはかなりの技術力と年数が必要となるでしょう。

また量産化にこぎつけたとしても、その後に信頼性不足による不具合が出る可能性も否定できません。

現時点ではまだ市場に登場していない技術ですので、今後の展開と日産の技術力の実力に注目です。

MEMO

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可変圧縮比エンジンの評価・口コミ

可変圧縮比エンジンに対する評価や期待は非常に高いものがあり、Twitter上にも発売前にもかかわらずさまざまな意見が投稿されています。

今回はその中からいくつかご紹介します。

内燃機関の未来が見えた

内燃機関のエンジンは毎年新技術が登場しているものの、大きくエンジンの効率を上げる革新的な技術はあまり登場していませんでした。

そのためハイブリッドカーや電気自動車に押されて内燃機関は衰退の一歩を辿ると思われていましたが、可変圧縮比エンジンはその未来を指し示す技術の一つとなります。

内燃機関もまだまだ未来に進むための進化はできるというのが証明されたのです。

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可変バルブ機構の次の技術

ここ10年ぐらいエンジンの進化はおもにバルブ関係の可変システムが大きな割合を占めており、世界中のメーカーが独自の可変バルブシステムを実用化して効率化を果たしました。

ですが今となっては可変バルブシステムの構造や効果もほぼ行き着いたような感じになってしまいましたが、可変圧縮比エンジンはそれに続く新たな道として注目が高いのです。

自動車用以外でも開発が進む

自動車用の可変圧縮比エンジンの実用化は日産自動車が世界初でしたが、船舶用の大型エンジンで同様の技術を実用化するのも日本になりそうです。

IHI(石川島播磨重工業)が船舶用可変圧縮比エンジンの開発完了を発表しており、実験用ではありますがエンジン本体も製造しています。

実用化はまだ先ですが、船舶用エンジンもさまざまな燃料を扱う関係から可変圧縮比エンジンの効果は高いようです。

可変圧縮比エンジン搭載車

可変圧縮比エンジンを搭載した車は現時点ではまだ発売されていませんが、日産からは来年発売予定の車種がいくつか既に発表されています。

インフィニティ QX50

インフィニティ QX50

前述したインフィニティの大型SUVであるQX50は可変圧縮比エンジンの発表と同時に搭載が発表されており、同時にスペックも発表されています。

QX50は2014年に初登場したクロスオーバーSUVで、都会的な滑らかなデザインが特徴の車です。

世界的なクロスオーバーSUVの人気の高まりに対応するために登場したモデルで、エンジンには3.7L V6ガソリンエンジン及び、3.0L V6ディーゼルエンジンが搭載されました。

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このうち2.0Lの可変圧縮比エンジンに置き換えられるのは3.7Lガソリンエンジンのほうになるので、現時点でわかっているスペックを比較してみましょう。

スペックMR20DDTエンジンQX50初代
エンジン型式2.0L 直列4気筒 ターボチャージャー付き可変圧縮比エンジン3.7リッターV型6気筒エンジン
最高出力200kW(270PS)239kW (324PS) /7,000rp
最大トルク390N・m360N·m (36.7kgf·m) /5,200rpm

エンジンの排気量が1.7Lも差があるので最高出力に関しては3.7L V6エンジンのほうが上ですが、見るべきはトルクの高さです。

可変圧縮比エンジンの特徴は低回転域での効率アップにありますので、トルクの向上には大きく効果があり、ターボチャージャーの追加もあって3.7Lエンジンを超える高いトルクを発揮しています。

次期型のQX50はFR車からFF車に変更になることで軽量になるので、2.0Lターボエンジンでも十分ということでしょう。

なおQX50は現時点では北米専用車ですので、日本に導入の予定はなさそうです。

日産 アルティマ

日産 アルティマ

日産ブランドで初めて可変圧縮比エンジンを搭載する予定なのは、こちらも北米専用車の中型セダンであるアルティマです。

アルティマは日産のアメリカ市場での売れ筋商品で、日産新開発のエンジンを重要車種に展開する戦略のようです。

ポイント

現時点ではスペックは判明していませんが、エンジンの排気量はQX50と同じく2.0L 直列4気筒ターボエンジンの可変圧縮比システム付きになるようなので、大きくスペックは変わらないでしょう。

アルティマも北米専用車で日本には導入されない車なのですが、アルティマは日本で発売されているティアナという車種と兄弟車であり、プラットフォームやエンジンなどが共通化されています。

そのため可変圧縮比エンジンが日本に導入されるとしたらティアナなどの中型車種からとなるのではないでしょうか。

可変圧縮比エンジンの今後

日産の可変圧縮比エンジンは2016年に発表後2019年に発売される見込みですが、開発の経緯は別にして実用エンジンとしての技術としては最新技術といってもよいものです。

その実力はまだまだ未知数のところはありますが、非常に興味深く、また未来のある技術と言っても良いでしょう。

また自動車用以外にも可変圧縮比エンジンは広がりを見せているようで、今後も世界的に期待がもてる技術です。

なお日産車については以下の記事でも取り上げているので、興味のある方はこちらもあわせて参考にしてみてください。

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