先代エクストレイルの無骨なイメージから、一気に先進的なスタイルに様変わりした3代目日産エクストレイル。
日産のSUVの中核を担うと同時にラインナップ整理がおこなわれ、大きく重くなってしまったエクストレイルですが、意外なほどに優れた加速性能を発揮します。
3代目日産エクストレイルの加速性能の秘密を徹底解剖します。
エクストレイルの加速性能
2013年にフルモデルチェンジを受けた日産 エクストレイル。
日産 ノートにも見られる「Vモーショングリル」を用いた顔つきに変更。先代までのオフロードイメージが一新され、スタイリッシュなオンロードSUVへとイメージチェンジされました。(オフロード性能の詳細は以下の記事をご参照ください。)
エクストレイルの走破性を徹底解剖!クロカン・オフロード性能はいかに?!フルモデルチェンジでボディサイズは全長4690mm全幅1,820mm全高1,730mmで先代よりも一回り大きくなり、フラッグシップSUVが存在しない現在の日産のSUVの中核を担います。
フルモデルチェンジにともない、パワートレインのラインナップ整理が行われ、エンジンは2L直噴4気筒エンジンのMR20DDのみ。
トランスミッションはエクストロニックCVT一本となり、2015年にはハイブリッドモデルが追加されました。
3代目日産エクストレイルは、SUVの2018年上半期における売上No.1の実績を誇ります
エクストレイル/ハイブリッドのスペック
性能項目 | 数値 |
最高出力 | 147PS/6,000rpm +41PS(ハイブリッド) |
最大トルク | 20.0kg・m/4,200rpm +16.3kg・m(ハイブリッド) |
0-100km/h加速タイム | 9.18秒 8.3秒(ハイブリッド) |
エクストレイルのエンジンの秘密
エクストレイルに搭載される2L直噴4気筒のMR20DDエンジンは、同社の人気ミニバン・日産 セレナにも搭載される日産の主力エンジン。(直4エンジンの詳細は以下の記事をご参照ください。)
直列4気筒エンジンの特徴!どんな音?搭載車を日本車/外車の車種からそれぞれ紹介!そのベースとなるMR20DEエンジンはトルク特性に優れるロングストロークに設計された量産エンジンですが、現在の厳しい環境性能に対応するため、徹底した内部抵抗の低減が施されているのが特徴です。
鏡面仕上げの軸受け部
エンジンの内部抵抗の中で大きな損失部分になるクランクシャフトやカムシャフトの軸受け部分は鏡面仕上げが施され、エンジンオイルの潤滑を促すことで抵抗の低減が図られます。
これらの加工技術は目新しいものではありませんが、かつてはレーシングエンジンやチューンドエンジンでは、少しでもエンジンのロスを減らそうと、ヤスリとコンパウンドを使って一カ所づつチューナーの顔が写るまで手磨きしていた手法。
さすがにエンジンの製造工程で1機づつ手磨きされることはありませんが、コスト第一優先の量産エンジンでここまで手を加えられることは、一昔前では考えられないことでした。
真円加工されたシリンダー
エンジンのシリンダーは、加工直後は真円でも、エンジンヘッドを組み付けるとボルトの締め付けトルクでエンジンブロックが微妙に歪み、真円にはなりません。
そのため、レーシングエンジンやチューンドエンジンと同じく、日産のMR20DEでは「ダミーヘッド」と呼ばれる、エンジンヘッドを組み付けたときと同じ状態にしてシリンダー内壁を削ることで真円を出す、もうひと手間の加工が追加されます。
エンジンシリンダーが真円であれば、ピストンリングは全周にわたって一定の力で張力を維持できるため、無駄にピストンリングの張力を強める必要がなくなり、エンジンの内部機械抵抗を低減させることができるのです。
まるでレーシングエンジン
MR20DEエンジンは、細かな機械加工の積み重ねで従来よりも約30%の内部機械抵抗の低減を実現しています。
これら細部にわたる加工は地味ですが、エンジンの
- 出力
- 回転フィール
- 耐久性
に確実に効果の出るひと手間。
ある程度数量の限定されるホンダ タイプRのエンジンならいざ知らず、完全量産エンジンでここまでするのは異例というか異常にすら感じられます。
さらに、冷却性能の向上、燃焼技術の向上により、2Lエンジンで2.2L並みの出力を発揮。
最大トルクの90%を2.000rpmの低回転域から発揮し、リニアな出力特性と息継ぎしないスムースな吹き上がりを実現したのが日産のMR20DEエンジンです。
エクストレイルに搭載されるエンジンは、それにら加え直噴化された証として、エンジン型式が「DE」から「DD」となっています。
シリンダー内部で圧縮された空気に燃料を噴射する直噴燃料システムにより、圧縮比を10.0から11.2へとアップ。熱効率向上に伴い約10PSもの出力向上を果たしています。
直噴エンジンについては、以下の記事で詳細を解説しています。興味のある方はこちらもご参照ください。
直噴エンジンとは?メリット3つとデメリット4つ!不具合と耐久性が欠点?!加速の肝はエクストロニックCVT
高出力のMR20DDエンジンに組み合わされるエクストレイルのパワートレインは、CVTのみとなっています。
CVTとは二つの向かい合った円錐二組に金属ベルトをかけ、向かい合う円錐の幅を変えることでベルトの回転半径を無段階で可変させることで、もっとも効率のよいエンジン回転数を保ったまま変速させるトランスミッションです。
その複雑な構造とベルトの滑りによる機械的ロスのため、大きなトルクには対応できず、主に低出力の小型車用の高効率変速機でしたが、日産は独自開発により、2Lから大排気量車の高出力にも対応するエクストロニックCVTを完成させました。
エクストレイルは、大トルクでも伝達可能なエクストロニックCVTにより、従来のCVTにみられた空転感を払拭。CVTとは思えないダイレクトな加速感と、広い変速幅による高効率化を実現しました。
直噴化されたMR20DDエンジンと高効率のエクストロニックCVTにより、エクストレイルの0-100km/hタイムは9.18秒。2.2Lエンジンなみの加速性能を発揮します。
追加されたハイブリッドシステム
エクストレイルにはハイブリッドもラインナップされます。モーターの出力は、31kW(41PS) 160N・m(16.3kgf・m)。
基本構造こそ一般的なパラレル方式のハイブリッドシステムで、モーター出力も特筆されるほど高いものではありません。
しかしエクストレイルに搭載されるハイブリッドシステムは1つのモーターを2つクラッチで制御する「インテリジェントデュアルクラッチ」で、効率のよいパワーデリバリーを可能とします。
回生ブレーキ時とEV走行時は、エンジンとモーターをつなぐクラッチを切り離すことでモーターの働きを最大限に発揮し、最大加速時は二つのクラッチをつなぎ、エンジン出力をモーターのトルクでアシスト。
0-100km/h加速タイムは、ガソリンモデルを1秒弱短縮する9.18秒をマークし、2.5Lエンジンに匹敵するシステム出力で、一回り大きくなったエクストレイルを加速させます。
もしエクストレイルを買おうと考えているなら、あわせて正しい値引き交渉のやり方も覚えておくといいですよ。
このやり方を知らないと最大60万円以上も損しますよ。詳しく知りたい方は、下記の『たった1分で車を60万円値引きできる裏技』のページをご覧ください。 たった1分で車を60万円値引きできる裏技!安く購入する秘密のテクニックとは?!エクストレイルの実際の加速感
ハイチューンが施されるエクストレイルのパワートレインでの、実際の加速はどう感じられるのでしょうか。
Twitterの投稿をもとに、エクストレイルの加速感を検証します。
エクストレイルの加速感の評判・感想
車については今のエクストレイルで雪道だろうと砂利道だろうと河原だろうとある程度走れるのでほぼ満足ですが、欲言えば高速道路の上り坂(勾配5%くらい)で失速しないくらいの加速力があれば…
— ほんだし(車載) (@hondashi_big) 2014年5月16日
※エクストレイルの雪道性能については、以下の記事をご参照ください。
エクストレイルは雪道に弱い?雪道走行の性能について徹底分析しました!細かなチューニングと直噴化されたエクストレイルのMR20DDエンジンは、概ね良好な出力を発揮しますが、大きくなったボディによる空気抵抗と重くなった車体重量に対し、2Lの排気量では絶対的な力不足は否めません。
高速道路の上り坂というシチュエーションは、空気抵抗と車体重量がもっとも影響を受ける状況であり、加速が鈍さがもっとも顕著に感じられる状況です。
2015年にエクストレイルのハイブリッドが追加されたのは、加速不足も要因のひとつでしょう。
さっき新エクストレイルHVとリーフ試乗してきました!どっちもモータ付いてて加速良かったです。また機会があったら他も乗ってみたいな〜@NissanJP pic.twitter.com/J8aY2maSD3
— 二代目板金王@スクルトゥーラ4000 (@love_bankinoh) 2018年6月24日
エクストレイルに搭載された1モーター2クラッチハイブリッドは、全回転域にわたり加速をアシストするため、2Lエンジンの力不足を解消するための最も効率のよい手段でした。
EV走行も可能であり発進時の出足や、もう少しだけトルクが欲しい時に、ダイレクトに駆動をアシストします。
YouTubeで加速感をチェック
次に、エクストレイルの0-100km/h加速の動画から、加速性能を検証します。まずはハイブリッドなしのエクストレイルから。
0-100km/hタイムは9.18秒。
タイムだけを見れば決して速い車であるとはいえませんが、最大トルク付近の4,000〜6,000rpmでの鋭い回転上昇に伴い、50〜80kmの実用速度域ではスポーツエンジンに匹敵する中間加速が印象的です。
CVTによりステップ変速されるものの、エンジン回転数と車速がリンクしたステップ変速ではなく、ところどころでCVT特有の無段階変速制御が介入しているのが確認できます。
効率よく加速させるためのCVT制御ではありますが、慣れないうちは違和感を覚えてしまう加速です。
一方ハイブリッドの0-100km/hタイムは8.3秒。
動画のエクストレイルのシフトモードはスポーツモードですが、変速制御はガソリンエンジンと同じくCVT制御が介入してしまいます。
しかし、全域にわたりモーターでアシストされる一回り厚いトルクは、ガソリン車よりも200kgあまり重いエクストレイル・ハイブリッドを180km/hまでたやすく加速させます。
エクストレイルに搭載されるMR20DDは、エンジン単体では出力、回転フィールともに非常に優れていますが、車重が重くなったエクストレイルには少々荷が重い様子。加速性能と燃費性能を重視するなら、ぜひハイブリッドがおすすめです。
なおエクストレイルの燃費については、以下の記事で詳しくまとめています。詳細まで知りたい方はこちらもご参照ください。
エクストレイルの燃費は悪い?街乗りや高速の実燃費は?改善し向上させる方法まで解説!エクストレイルの加速性能をほかの車と比較
日産 エクストレイルと同価格帯の他社SUVの加速性能とを比較します。
エクストレイルと同じくスタイリッシュなスタイリングのSUVで、同じ2Lガソリンエンジンを搭載したグレード3車種とを比較します。
マツダ CX-5
性能項目 | 数値 |
最高出力 | 150PS/6,000rpm |
最大トルク | 20.3kg・m/4,000rpm |
0-100km/h加速タイム | 11.16秒 |
SKYACTIV-G2.0Lエンジンを搭載するマツダ CX-5のスペックはわすかにエクストレイルより高いものの、6速ATのCX-5は0-100km/h加速は11.16秒。(SKYACTIVエンジンの詳細は以下の記事をご参照ください。)
スカイアクティブエンジンとは?どんな仕組み?搭載車は何の車種か紹介!エクストロニックCVTのトランスミッション性能差でエクストレイルの方が加速に優れます。
しかし、エクストレイルの癖のある変速制御は、直線の高速道路ならともかく、決して運転しやすいものではありません。
6ATを搭載するマツダ CX-5なら自然な変速フィールで、ワインディングロードでも軽快に安定したドライビングが楽しめるでしょう。
CX-5の加速性能については、以下の記事でさらに詳しく解説しています。詳細まで知りたい方はこちらもご参照ください。
マツダCX-5の加速性能を解説!0-100km/h加速タイムはどのくらい?三菱 アウトランダー
性能項目 | 数値 |
最高出力 | 150PS/6,000rpm |
最大トルク | 19.4kg・m/4,200rpm |
0-100km/h加速タイム | 約11秒 |
三菱アウトランダーは、PHEVばかりが注目されますが、2Lと2.4Lガソリンエンジンもラインナップされ、どちらもSUVとしてバランスよく優れた性能を発揮します。(エンジンの詳細は以下の記事をご参照ください。)
ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの違い3つ!比較すると熱効率や寿命が全然違う?!アウトランダーの2Lエンジンの0-100km/h加速はクラス平均的な約11秒ほど。
トランスミッションのCVTはノーマルモードでは一定回転数のまま車速を上げる一般的なCVT制御ですが、スポーツモードではステアリング裏のパドルシフトでの手動変速が可能になり、ATのようなステップ変速で自在にシフトレンジを操ることができます。
エクストレイルには優れたCVTが装備されますが、パドルシフトを備えない一点が唯一最大のウィークポイント。
その点、三菱アウトランダーはSUVの老舗らしい隙のない造りが魅力。地味ながら総合的なSUVとしての性能を求めるのであればアウトランダーをおすすめします。
スバル フォレスター
性能項目 | 数値 |
最高出力 | 148PS/6,200rpm |
最大トルク | 20.0kg・m/4,200rpm |
0-100km/h加速タイム | 約10秒 |
スバルはCVTを世界で初めて実用化に成功したパイオニア。
フォレスターをはじめとする多くのスバル車に搭載されるリニアトロニックCVTは、エクストロニックに匹敵する伝達効率と変速幅を備えるCVTです。
4代目フォレスターの0-100km/h加速はエクストレイルに迫る約10秒。
一般的なレシプロ4気筒エンジンには真似できないほどスムーズに吹き上がる水平対向エンジンと、伝達効率に優れるリニアトロニックはパドルシフトも備え、スポーティかつダイレクトな加速がフォレスターの持ち味。
水平対向エンジン/ボクサーエンジンのメリット5つとデメリット5つ!音がいい?!次期フォレスターでは、2Lエンジン+ハイブリッドシステムもラインナップに加える模様です。
加えてスバルの優秀なシンメトリカルAWDシステムで、優れた走行安定性と走破性を備えるフォレスターは、雪道やオフロード走行を目的とする場合におすすめしたい車です。(雪道性能の詳細は以下の記事をご参照ください。)
フォレスターは雪道に最強?雪道走行の性能について徹底分析しました!フォレスターの加速性能は以下の記事でさらに詳しく解説しています。詳細まで知りたい方は、こちらも参考にしてみてください。
フォレスターは速いのか?加速性能から0-100km/h加速タイムまで解説!エクストレイルの武器はハイテク制御
3代目日産 エクストレイルの加速の秘密は、手の込んだMR20DDエンジンと、高効率のエクストロニックCVTをハイテクを駆使し制御している点です。
各部をしっかりと制御し、協調させることで同じ条件のライバルよりも優れた加速性能を誇ります。
加速に限らず、4WDシステムや姿勢制御、自動運転「プロパイロット」も含め、すべてが緻密に制御される最先端のエクストレイルは、誰がどんな状況で乗っても安定した速さを発揮するでしょう。
車に全幅の信頼をおいて走るドライバーなら、数あるSUVのなかでも日産 エクストレイルがもっともマッチする車です。
エクストレイルについては、以下の記事でも取り上げているので、興味のある方はこちらもあわせて参考にしてみてください。
エクストレイルの燃費は悪い?街乗りや高速の実燃費は?改善し向上させる方法まで解説!エクストレイルは故障が多い?壊れやすいのか故障率をもとに解説!