ディーゼルエンジンは自動車用エンジンの主要なエンジンの一つで、ガソリンエンジンより効率が良いという特徴があります。
そんなディーゼルエンジンの効率の良さを語る際に「熱効率」という考え方があり、エンジンの性能を左右する重要なものです。
今回はディーゼルエンジンの熱効率についてご説明します。
ディーゼルエンジンの熱効率
熱効率とはエンジンの性能を表す指標の一つで、エンジンの効率の高さの数字です。
まず熱効率というものがどういうものかを簡単にご説明し、その後にディーゼルエンジンの熱効率がどのぐらいかをご説明します。
エンジンの熱効率とは
熱効率(Thermal Efficiency)は熱機関の性能を表すための指標であり、外燃機関から内燃機関までさまざまなエンジンに使われています。
内燃機関の種類と仕組み/構造!外燃機関との違い4つと類似点4つ!将来性あり?!熱効率は一般的に0〜100の数字で表されますが、これはパーセンテージ(%)を表しています。
ディーゼルエンジンやガソリンエンジンはエンジン内部で燃焼を起こす内燃機関の一種であり、内燃機関の熱効率は燃料の持つ燃焼エネルギーがどのぐらいエンジン出力に変換できているのかを表します。
ディーゼルエンジンとは?仕組み/構造を簡単にわかりやすく解説!ガソリンエンジンのメリット3つとデメリット5つ!仕組みと将来性の特徴を解説!ディーゼルエンジンは燃料に軽油を、ガソリンエンジンはガソリンを使用していますが、それらの燃料は燃えた時にある一定の燃焼エネルギーを持っています。
内燃機関のエンジンはそのエネルギーをピストンで受けてピストンを往復運動させ、さらにクランクシャフトで回転エネルギーに変換しています。
そしてその回転エネルギーで仕事をできるエネルギー量がエンジン出力やトルクであり、エンジンのスペックの高さを表す数字になります。
もし燃料の持つエネルギーすべてがエンジンの出力に変換できたとすれば、熱効率は100(%)となります。
ですが実際のエンジンは熱効率が100になることはなく、さまざまなエンジンの損失によって熱効率が下がります。
損失とは簡単に言えばエネルギーの損であり、主に次のようなものがあります。
エンジンの損失 | 損失の内容 | 損失のおおよその割合 |
冷却損失 | エンジンの冷却に伴う損失 | 30% |
機械損失 | エンジン部品の摺動や運動による損失 | 5% |
排気損失 | 排気ガスの温度による損失 | 30% |
放射損失 | エンジンから熱の放射による損失 | 5% |
これらの損失はガソリンエンジンにおける代表的なものであり、このことからガソリンエンジンの熱効率は30(%)程度にとどまっています。
つまりガソリンエンジンは燃料の持つエネルギーの7割をエンジン出力以外に捨てていることになり、燃料のエネルギーは実はそこまで有効に使われていないことがわかります。
なおガソリンエンジンの代表的な損失に「ポンピングロス」というものがあり、吸気がスロットルチャンバーを通過する時の吸気抵抗が損失となるものです。
ポンピングロスでの損失は10%程度に達する大きなものですが、その損失は最終的に冷却損失や排気損失となるものなので、上記の表には入ってきません。
このように熱効率とはエンジンがどれだけ燃料のエネルギーを有効に使えているかを表す指標であり、熱効率が高いほどエンジンの効率はよくなります。
ディーゼルエンジンの熱効率
さてディーゼルエンジンはガソリンエンジンとピストンやクランクシャフトなどの本体系の構成はほとんど同じで、使われる燃料と燃焼方式が違います。
ガソリンエンジンの熱効率は20%〜30%が一般的ですが、現在のガソリンエンジンの技術ではどんなに高くなっても30%が限界と言われています。
エンジンの効率改善のために様々な技術が開発されていますが、その改善代は年々少なくなっており、現実的に改善できる箇所がほとんど無くなっているのです。
それに対してディーゼルエンジンは自動車用のエンジンの熱効率は40%程度となっており、ガソリンエンジンより1割も良くなっています。
また大型船舶用のエンジンでは50%に達しているディーゼルエンジンもあり、熱効率に関しては非常に高いのです。
つまりディーゼルエンジンは燃料のエネルギーを効率的にエンジン出力に変換することが可能で、この特徴を活かすことでエンジンの燃費や低速トルクがガソリンエンジンより高くなります。
クリーンディーゼル車は燃費が悪い?低燃費車を比較してランキングで紹介!(クリーン)ディーゼルエンジンのトルクが大きい理由!トルクの大きい車種ランキングとともに解説!これがディーゼルエンジンの構造上のメリットであり、エンジンの効率が非常に良いのです。
ディーゼルエンジンの熱効率が良いことには理由があり、ガソリンエンジンとの構造の違いでこの差が生まれています。
ディーゼルエンジンの熱効率が良い理由
ディーゼルエンジンの熱効率が10%以上もよいのは構造の違いから生まれており、その大きな要因はポンピングロスの有無です。
ガソリンエンジンのポンピングロスの原因
ガソリンエンジンにはポンピングロスの原因となるスロットルチャンバーという部品が付いていますが、この部品は吸気の流れを絞る弁となっています。
この部品の役割はエンジンに送り込まれる空気の量を制御しており、ガソリンエンジンは空気の量によってエンジン出力を調整しています。
アクセル開度が少なくエンジン出力が低い時にはスロットルチャンバーは閉まっており、エンジン出力が上がるたびにスロットルチャンバーが開いて空気量が増えていきます。
スロットルチャンバーが開くほど吸入空気が勢い良くエンジンに入っていき、吸気抵抗は低くなります。
一方でスロットルチャンバーが閉まるほど空気が通りにくくなるので吸気抵抗は増加し、ポンピングロスが増大します。
自動車は比較的エンジン出力の低い領域で走行することが多いので、スロットルチャンバーは閉まり気味なことが多く、ガソリンエンジンは多くの領域でポンピングロスが大きい状態で走行しているのです。
ガソリンエンジン車は高速道路などで走ると燃費が良くなる現象がありますが、これは主にスロットルチャンバーが開いている状態になってポンピングロスが減り、エンジン効率が良くなっているためです。
ディーゼルエンジンのポンピングロス
ディーゼルエンジンは圧縮着火という燃焼方式のエンジンで、燃料である軽油の自己着火を利用するエンジンです。
(クリーン)ディーゼルの燃料は軽油?灯油やガソリンを給油しても走れる?ディーゼルエンジンの出力調整はガソリンエンジンと違って燃料の噴射量によって調整されており、空気量は全く調整する必要がありません。
そのためディーゼルエンジンにはスロットルチャンバーが必要なく、吸入空気は常に全開でシリンダーに入っていきます。
そのためディーゼルエンジンはガソリンエンジンにあるようなポンピングロスがなく、これがディーゼルエンジンの熱効率の良さに直結しています。
ポンピングロス以外の損失に関しては冷却損失などでディーゼルエンジンのほうが多少悪化する要素もあるのですが、ポンピングロスの有無がとにかく大きく、ガソリンエンジンでは構造上どうしてもディーゼルエンジンに熱効率で上回ることができません。
ディーゼルエンジンの圧縮比
ディーゼルエンジンの熱効率の高さを発揮しているのはポンピングロスだけではなく、もう一つエンジンの圧縮比の高さもその要因です。
エンジンの圧縮比とはシリンダー内でピストンが空気や燃料の混合気を圧縮する比率の高さのことで、内燃機関のエンジンは一般的に圧縮比が高いほど熱効率がアップする傾向にあります。
シリンダーでの圧縮が強いとそこで発生する爆発のエネルギーも高くなるので、その分エンジンは高いエネルギーを発生させることができ、結果的に熱効率が向上します。
ディーゼルエンジンの圧縮比は14〜22の間が一般的で、圧縮着火という構造を持つことで圧縮比が高くなければそもそも着火できないという特徴を持ちます。
ディーゼルエンジンの圧縮比がガソリンエンジンより高い3つの理由!理想的な圧縮比についても詳しく考察!一方でガソリンエンジンの圧縮比は8〜10が一般的で、ディーゼルエンジンより圧縮比が低くなることで熱効率が下がります。
ポンピングロスの有無とあわせて圧縮比に差があることで、ディーゼルエンジンの熱効率はガソリンエンジンより10%以上高くなっています。
ガソリンエンジンが圧縮比を高くできない原因は「ノッキング」という異常燃焼現象にあり、圧縮比を高くするとガソリンが自己着火によって不意のタイミングで燃焼が始まってしまうためです。
ガソリンエンジンの点火タイミングはスパークプラグによる点火で決まりますが、それ以外のタイミングで燃焼してしまうとエンジンの破損を起こす可能性もあります。
そのためガソリンエンジンは圧縮比を低めにしてノッキングが起こらないようにしなければならず、どうしても熱効率が低下してしまいます。
これもディーゼルエンジンとガソリンエンジンの構造的な差なのでくつがえることはなく、ディーゼルエンジンのほうが有利な点です。
ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの違い3つ!比較すると熱効率や寿命が全然違う?!ディーゼルエンジンで増加するロス
ディーゼルエンジンはガソリンエンジンよりトータルの熱効率では上ですが、全ての要素で効率が良いわけではなく、いくつか増加するロスの要素があります。
ディーゼルエンジンの本体系部品はガソリンエンジンの部品より総じて重たく頑丈になっており、これはガソリンエンジンより高い圧縮比や燃焼エネルギーの高さから必要な処置です。
ですが重量のある本体系部品を動かすには多くのエネルギーが必要で、これは機械的損失としてロスの増加に繋がります。
ただ割合的にはそこまで大きな差ではなく、ディーゼルエンジンの効率を大きく悪化させるものではありません。
もうひとつ増加傾向にあるのは冷却損失で、エンジンの内部で発生する高い燃焼エネルギーの一部を冷却水で排熱しているのですが、エネルギーが高い分その排熱量も増加します。
しかしこれについても何%も増加するほどのものではありません。またそれに加えて放射損失もわずかに増加するでしょう。
こういった損失の増加がガソリンエンジンより増加する傾向があるのは確かですが、ディーゼルエンジンはポンピングロスという非常に大きな損失がなくなり、さらに圧縮比の高さで熱効率が向上するという点において、ガソリンエンジンより熱効率の点で有利なのです。
これから車の購入を考えているなら、値引き交渉の正しいやり方を覚えておくといいですよ。このやり方を知らないと最大60万円以上も損します。
詳しく知りたい方は、下記の『たった1分で車を60万円値引きできる裏技』のページをご覧ください。
熱効率が良いディーゼルエンジンが主流にならない理由
ディーゼルエンジンはガソリンエンジンより熱効率がよく、そのことから燃費も良いエンジンとなっているのですが、それに反して日本市場ではディーゼルエンジン車のシェアがわずか1%ほどと非常に少ない状況です。
実は欧州市場ではディーゼルエンジン車のシェアは5割にも達しており、ディーゼルエンジン車は間違いなく主流のひとつです。
ですが日本市場とこれほどの差が生まれる背景にはいくつかディーゼルエンジンが持つデメリットが関係しており、もっとも大きいのは排気ガス規制にあります。
ディーゼルエンジンの黒煙問題
ディーゼルエンジンはその構造上排気ガス中に有害物質が多いエンジンなのですが、1990年代のディーゼルエンジンはこの有害物質、とくにPMと呼ばれる粒状黒鉛を黒煙として吐き出していました。
車のマフラーから出てくる黒煙は見た目にも健康に悪そうですが、実際PMは肺がんの原因にもなったりする物質であり、排出規制が年々厳しくなりました。
加えて日本では黒煙を吐き出すディーゼルエンジンに対するイメージが大幅に悪化し、規制のクリアーが難しいことも相まって、2000年中盤頃に国内市場のディーゼルエンジン乗用車は一度完全にラインナップから消えたのです。
(クリーン)ディーゼルの煤問題とは?除去・洗浄や対策方法まで全て解説!日本ではこれ以降ディーゼルエンジンの乗用車というもの自体が認知されない状況が続き、販売台数に対するシェアも当然ガクッと下がったわけです。
しかし2007年頃に日産自動車が排気ガス規制に対応した「クリーンディーゼルエンジン車」を発売したことを皮切りに、国内でもう一度ディーゼルエンジン車にスポットライトが当てられ、現在ようやくシェア1%台まで戻ってきたところなのです。
クリーンディーゼルエンジンとは?メリット2つとデメリット3つ!仕組み/構造の特徴まで解説!今後もマツダがディーゼルエンジンの開発に積極的で少しづつシェアは増えていきそうです。
ハイブリッドカーの台頭
もうひとつディーゼルエンジン車のシェアが伸びない理由にはハイブリッドカーの存在があり、どちらもガソリンエンジン者に対して環境対応車としてCO2排出量の少なさや燃費が売りの車となっています。
ディーゼルエンジン車のイメージが悪化したのと同時期に日本ではハイブリッドカーという新たなエコカーが誕生し、その圧倒的な燃費の数字はまたたく間に人気車となりました。
ハイブリッドカーも基本はガソリンエンジンを使うので、エンジン単体で見ればディーゼルエンジン車より効率が劣るのですが、そこに電気モーターを組み合わせたことで車全体の効率を向上させています。
とくに日本で半数のシェアを持つトヨタ自動車がハイブリッドカーを積極的に投入したこともあって、日本市場ではディーゼルエンジンではなくハイブリッドカーが大きくシェアを伸ばした結果、ディーゼルエンジンは主流ではなくなっています。
実際欧州と日本では車の走らせ方が違い、ハイブリッドカーのほうが有利な条件が多いのも事実です。
ディーゼルエンジン車のコストの高さ
ディーゼルエンジンはエンジン単体の効率で言えばガソリンエンジンより勝り、さらに燃費も良いという経済的な面もあります。
ですがエンジン単体のコストだけで言えばディーゼルエンジンのほうが高くなってしまい、その結果ガソリンエンジン車に対して数十万円もの車両価格差が生まれてしまい、売上が伸びないのです。
ディーゼルエンジンは本体系が頑丈で重たいことに加え、前述した排気ガスの処理装置に大きなコストを割かなければなりません。
また本体系以外のエンジン部品も総じてコスト高のものが多く、エンジン単体として見た場合にガソリンエンジンより高くなってしまいます。
さらにディーゼルエンジンはガソリンエンジンより振動が大きくエンジン音も煩いというデメリットを持っており、この対策のためにも車両部品の改良や遮音材の追加などにコストが増加します。
一方でハイブリッドカーよりは低価格という面もありますが、燃費性能ではハイブリッドカーには及びませんので、簡単にいうとディーゼルエンジン車はエコカーという観点で言えば、ガソリンエンジン車とハイブリッドカーの中間にあって少々中途半端な存在なのです。
ディーゼルエンジン特有の低速トルクの高さなどは他にはない魅力ですが、燃費とコストという2大要素に対してはディーゼルエンジン車は不利となって主流にはなかなか返り咲かないのが現状です。
なおディーゼルエンジン車については以下の記事でも取り上げているので、もっと詳しく知りたい方はこちらもあわせて参考にしてみてください。
「ハイブリッド」vs「クリーンディーゼル」の違い8つ!燃費や維持費まで比較!「クリーンディーゼル」vs「ガソリンエンジン」の違い8つ!燃費や維持費まで比較!