近年国内でクリーンディーゼルエンジン車がちょっとしたブームになっており、数年前とは国内のラインナップも大幅に充実しています。
ですが日本のドライバーはディーゼルエンジン車にあまり慣れてないため、車のチョイ乗りによるトラブルが少なくありません。
今回はそんなディーゼルエンジン車のチョイ乗りについてご説明します。
ディーゼル車でチョイ乗り(短距離走行)が良くない理由
チョイ乗りとは短い距離を走行することを指しており、たとえば近所のコンビニやスーパーなどにちょっと買い物に出る時などにやりがちです。
自家用車を持っている人なら結構やりがちのチョイ乗りですが、ディーゼルエンジン、とくに最新のクリーンディーゼルエンジンにはチョイ乗りは結構大きな問題となります。
チョイ乗りはクリーンディーゼルエンジンに次のような問題を引き起こす大きな原因となります。
クリーンディーゼルのカーボン堆積と処理
ディーゼルエンジンはその燃焼時にさまざまな有害物質が発生する特徴があり、それらを大気中に放出しないようにしたのがクリーンディーゼルエンジンとなります。
ディーゼルエンジンとは?仕組み/構造を簡単にわかりやすく解説!クリーンディーゼルエンジンとは?メリット2つとデメリット3つ!仕組み/構造の特徴まで解説!その有害物質のうちのひとつにPM(粒状黒鉛)と呼ばれるカーボンの細かな粒子があり、これはエンジンで燃料が不完全燃焼した時に生まれた燃料の燃え残りです。昔のディーゼルエンジンは排気ガスが黒かったのですが、このカーボンのせいで黒かったのです。
クリーンディーゼルエンジンにはこのカーボンを捕集して処理するための触媒が装着されており、これを「DPF(Diesel Particulate Filter)」と呼んでいます。
DPFは内部がフィルター上になっている触媒で、カーボンの微粒子を触媒の中に濾し取り、それ以外の排気ガスは通過させます。
その後捕集したカーボンは排気ガスの温度を上昇させることで再燃焼させ、触媒内部でカーボンを完全に燃焼させて無害なガスとしています。
この一連の動作をDPFの再生と呼び、クリーンディーゼルエンジンでは排気ガスを浄化するとともにカーボンを処理するための必要な動作です。
チョイ乗りで増加するカーボン堆積
さてチョイ乗りでクリーンディーゼルの何に問題が起きるのかといえば、カーボン堆積の増加とDPF再生の阻害という2つの問題を引き起こします。
チョイ乗りの状態は車のスピードが比較的低いため、エンジンの負荷が少なく、また稼働時間も短めとなります。またディーゼルエンジンからカーボンが大量に排出されるのはエンジン負荷の低い状態のときで、エンジンの燃焼エネルギーが低いため燃料の不完全燃焼が起こりやすいのです。
ということはチョイ乗りをするということはディーゼルエンジンがカーボンの大量生成をしてしまうことになり、排出されるカーボンが増えるわけです。
その排出されたカーボンは当然ながらDPFに堆積するわけですが、チョイ乗りを続ければそれだけDPFに溜まるカーボンは増加します。
そのカーボンはDPF再生によって再燃焼させなければならないのですが、DPFの再生には高い排気ガス温度が必要です。ですがチョイ乗りでエンジン負荷の低い状態では排気ガスの温度は比較的低めであり、この状態ではDPFの再生は起こりません。
つまりチョイ乗りが多くなるとカーボンの生成は増える一方でDPFの処理ができないので、DPFにはカーボンが通常より多く溜まることとなります。
まだ初期の頃ならDPFは十分な容量を残していて問題ないですが、チョイ乗りが続けば次のような問題が起こります。
DPFの強制再生と破損
DPFにはカーボンが溜まりすぎた場合のフェールセーフ機構も備えられており、カーボン堆積をセンサーで検知しています。そしてDPFの再生が必要となった場合には警告灯が点灯し、その際には「DPF強制再生」が必要となります。
DPF強制再生とはその名の通り、DPFの再生を手動で行うことを指し、クリーンディーゼル車には強制再生用のスイッチがあります。
安全な場所に車を停車した上で強制再生スイッチをオンにすると、エンジンの回転数や負荷が一気に上昇し、DPFを再生するための排気ガス温度を生み出します。その状態でエンジンを回し続ければDPFの再生が行われ、過剰に堆積したカーボンが処理されるのです。
普通の状態であればDPF強制再生をすればひとまずカーボン堆積は解決できますが、その後もチョイ乗りを続ければまた同じ状況が出てきます。
またDPFの処理能力も次第に劣化するので、あまりにカーボン堆積が多くなったDPFを再生した場合にはDPFが破損する場合があります。
カーボン燃焼時には高い温度が発生しますが、その量が多ければ温度も高くなり、最終的にはDPFが溶けて破損する「溶損」という現象が起きてしまうのです。
こうなるとDPFは使用不能となり、その車は自走不可能な状態にまでなってしまいます。修理するためにはディーラーなどに運搬した後DPFや排気管の交換を行うのですが、その費用は数十万円かかるほどの高額修理となるので、非常に大きな問題に繋がってしまいます。
チョイ乗りという誰でもやりがちな走り方ではありますが、ことクリーンディーゼル車に関しては気をつけなくてはなりません。
EGR関係へのカーボン堆積
もう一つチョイ乗り時にカーボンの増加で問題となる点があり、EGR(Exhaust Gas Recirculation)というエンジンシステムにカーボンが堆積するというものです。
EGRは排気ガスの一部を吸気に戻すシステムで、エンジンの効率化やNOxの低減などに大きな効果のあるシステムです。
現在のクリーンディーゼルエンジンには必須と言えるシステムですが、カーボンを含んだ排気ガスを吸気側に流すわけで、EGR系の部品やインテークマニホールドなどにもカーボンが堆積していきます。
EGRを通過したカーボンはエンジンオイルと結びついてスラッジと呼ばれる固形物となり、部品内部に堆積することで吸気径を狭くしたり、センサー類を塞いだりします。
これらのスラッジは基本的にはエンジン出力が高くなって排気ガスの流速が上がれば、一部が剥がれて燃焼室に入り、そのまま燃やされてしまいます。
ですがチョイ乗りばかりでエンジン負荷が低い状態が続くと、スラッジは堆積する一方となり吸気系の性能を落としたり、センサーの不良で警告灯が点灯したりします。
こちらの問題でスラッジが堆積し続けた場合には、吸気系の分解を伴う内部洗浄が必要となり、大きなトラブルに発展するのです。
なおディーゼルエンジンのカーボン(煤)については以下の記事でも詳しく解説しているので、詳細まで知りたい方はこちらもあわせて参考にしてみてください。
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チョイ乗り・短距離走行の具体的な距離と頻度
チョイ乗りはイメージとしてはなんとなくわかりますが具体的にはどのぐらいの時間や距離となるのでしょうか。
チョイ乗りはクリーンディーゼルエンジンに関しては一つの指標があり、それはマツダが発表しているクリーンディーゼル車の乗り方の指標に見られます。
マツダは国内メーカーではクリーンディーゼル車のラインナップで圧倒的なシェアを持っているのですが、チョイ乗りによるカーボン堆積の問題で何度もリコールを出しているほどこの問題に苦しんでいるメーカーです。(ラインナップの詳細は以下の記事をご参照ください。)
クリーンディーゼル搭載車一覧とおすすめ車種まとめ!SUVからミニバンまで全て紹介!マツダが推奨するクリーンディーゼル車の乗り方では、次のような時にカーボンが溜まりやすいとなっています。
- 10分以下の走行の繰り返しや、エンジンが暖気出来ないような走行を繰り返した時
- 長時間のアイドリング状態
これに則ればクリーンディーゼル車のチョイ乗りとは10分以下の走行、もしくは長時間のアイドリング状態がある状態であり、1km〜2kmしか走行しない場合や、駐車場などでアイドリングを続けている場合などです。
また日本の道路条件では渋滞の多い街中や駅前などでもこの状況が生まれます。郊外型の土地であれば車の移動距離が多いのでこの状況にはならないのですが、都会の街中では割と起こりやすい状況であり、日本では特殊な状況ではありません。
これまで日本ではガソリン車がほぼ大半を占めていてこのような問題は起きていなかったのですが、クリーンディーゼル車が登場したためにようやく認知されてきたと言えます。
ディーゼル車の理想の使い方
さてチョイ乗りやアイドリングの多い状況はクリーンディーゼルエンジンにとって厳しい状況ですが、クリーンディーゼル車に理想の走り方というものもあります。
こちらもマツダが発表している資料にあるのですが、「一週間に1回〜2回程度、30分以上の走行を推奨」となっています。
つまりエンジンの負荷を一時的に上げ、DPFの再生を促したりEGR系へのスラッジ堆積を減らしたりするために、チョイ乗りするような状況が多くても一時的にでも長時間走行しなさい、ということです。30分とはなっていますが長ければ長いほど効果は高く、その分カーボン堆積は減少します。
つまりクリーンディーゼル車の理想的な乗り方としては、平日はチョイ乗りばかりであったとしても、週末にはちょっと車で遠出をするような使い方が良いのです。
その際に高速道路を走るなどエンジン負荷の高い状況があればなお効果が高いので、週末には家族や友人と楽しいドライブをするのもよさそうです。
ディーゼル車は正しい使い方をすれば買いの車
日本ではまだまだクリーンディーゼル車は珍しい存在で、ガソリン車に慣れた日本人はチョイ乗りが車に悪影響を与えるなんて思いもしません。
そのせいでクリーンディーゼル車が普及する初期の頃にはたしかにトラブルも多くあり、悪いイメージも結構付いてしまいました。
ですがそれはクリーンディーゼル車の乗り方や特性を知らなかっただけであり、前述したとおりチョイ乗りすること自体が悪いのではありません。
たまにエンジンをしっかり回してあげればクリーンディーゼルエンジンは良好な状態に維持できますし、余計なトラブルや故障も減らすことができます。
もともとクリーンディーゼル車は欧州で発展した車種で、日本よりも走行頻度の高い同地に適した車種といえます。
日本の道路状況には必ずしもマッチしてはいないのですが、クリーンディーゼルエンジン特有の高いトルクや燃費の良さなどは大きなメリットであり、チョイ乗りするかどうかで購入を決めるのにはもったいないほどの魅力があります。
クリーンディーゼル車というものの特徴をしっかり把握し、少し運転のやり方を心がけるだけで十分にトラブルは回避できますので、まずは一度クリーンディーゼル車に試乗してみてその楽しさを体感してみましょう。
なおディーゼルエンジンについては以下の記事でも取り上げているので、興味のある方はこちらもあわせて参考にしてみてください。
ディーゼルエンジンの寿命/耐久性は走行距離や年数だとどれくらい?クリーンディーゼルが今後普及しない理由3つ!将来性はあるか未来予想!規制が厳しすぎる?!