「あなたにとって過去の名車といえば?」
この質問の答えは、車好きの数だけ答えがありますよね。ハコスカ、2000GT、S30…。
しかし、この中でも「AE86」は特別な一台ではいないでしょうか?
生産終了から時を経るごとに価値が増し、20年超しで後継車が登場するなど、その輝きはまさに”名車”ならでは。
今回はそんな「AE86」について、モデルチェンジ前期・後期で「どんな違いがあるのか?」解説したいと思います。
AE86とはどんな車?
「かの有名なハチロクですが、どんな車かイメージできますか?」
前期・後期の共通点を見ていく前に、AE86の概要について、少しおさらいしましょう。
「トレノ」と「レビン」
AE86として有名なのは「4代目 スプリンタートレノ」ですが、1983年の発売当時は、姉妹車である「4代目 カローラレビン」の方が人気車種でした。
この2車種は「エンジン」「シャシー」を共有しており、大きな違いはヘッドライトにあります。リトラクタブルならトレノ、固定式ならレビンといった具合です。
それぞれ「スプリンター」「カローラ」のスポーツモデルとして開発されたもので、型式は同じく「AE86型」です。(現在のカローラの詳細は以下の記事をご参照ください。)
カローラスポーツの試乗レビュー!乗り心地の感想・インプレッション!そのためハチロクという言葉はこの2車種を指します。
この時代はFFが主流になり始めていた頃で、スプリンターもカローラも「トレノ」「レビン」のネームを冠さないモデルはFFへと変更されました。
まさに「時代の転換期に生まれた車」というわけですね。
2度のモデルチェンジ
販売期間は1983年~1987年ということで、寿命は決して長くありませんでした。
そのなかでもモデルチェンジは1984年と1985年に2回行われ、ファンの間では83~84年のモデルを「1型」、84~85年のモデルを「2型」、85~87年のモデルを「3型」と呼ばれています。
ちなみに、1型は「前期」、2型は「後期」ですね。2型は「中期」とも呼ばれますが、「外見は後期型」「駆動部分は前期型」なので微妙なポジションです。
前期が販売されている時期はレビンの方が圧倒的に人気でしたが、「富士フレッシュマンレース」にてプロドライバーである土屋圭市さんが6連勝を果たしたことで、トレノにも注目が集まり始めます。
このとき乗っていた「ADVAN」トレノが披露したドリフト走行はファンに衝撃を与え、土屋さんはドリフトキングと呼ばれるようになりました。
生産終了後に異例のプレミア化
AE86の逸話で欠かせないのが、人気漫画「頭文字D」の大ヒットですよね。
主人公がトレノを操って、数々の名バトルを繰り広げるストーリーに、1990代当時の若者たちは釘付けになります。
連載時期には生産終了していましたが、依然として「AE86=レビン」という印象でした。
しかし、漫画の大ヒットにより国内外問わず人気に火が付き、「AE86=トレノ」という構図が完全にできあがります。
その人気ぶりは、30年以上が経過した今でもプレミア価値がついているほど。生産終了にもかかわらず、ここまで爆発的に人気がでるのは異例のことです。
有名な芸術作品には「芸術家の死後に認められたもの」が多く存在しますが、AE86はまさにアートのような一台なのです…。
AE86の前期と後期の共通点
それでは「モデルチェンジの前後」における、AE86の共通点について見ていきましょう。
共通点① 「4A-GEU」エンジン
AE86はすべて共通して、スポーツ仕様の「4A-GEU」型エンジンを搭載しています。
モータスポーツを視野に入れてスポーツ・ツインカムを搭載し、高回転・高レスポンスを武器としたトヨタの「名機」です。(ツインカムの詳細は以下の記事をご参照ください。)
ツインカムエンジンとは?仕組みは?搭載車を日本車/外車の車種からそれぞれ紹介!このエンジンを搭載したトレノは、当時始まった全日本ツーリングカー選手権(通称”グループA”)の「クラス3」に出場し、ホンダ「シビック」と数々の死闘を繰り広げました。
トヨタのエンジンは「ヤマハ発動機」と共同開発したものが多いですが、このエンジンは純トヨタ製のユニットです。
エンジン名称 | 4A-GEU |
形式 | 直列4気筒 自然吸気 |
排気量 | 1,587cc |
内径×行程 | 81.0mm×77.0mm |
ボアストローク比 | 0.95 |
圧縮比 | 9.4 |
使用燃料 | レギュラーガソリン |
最高出力 | 130ps/6,600rpm |
最大トルク | 15.2kgm/5,200rpm |
※直列4気筒、自然吸気、エンジンの詳細は以下の記事をご参照ください。
直列4気筒エンジンの特徴!どんな音?搭載車を日本車/外車の車種からそれぞれ紹介!NAエンジン(自然吸気エンジン)とは?メリット5つ!音が最強の魅力?!諸元はこのようになっています。
数字的なこともさることながら、このエンジンは「サウンド」と「フィーリング」が優れおり、まさに「官能的」な魅力が詰まっているのです。
高音のエンジンサウンドを奏でながらスライドする姿に、多くのファンが虜になってきました。
共通点② E型シャシー
同モデルであるため、AE86はずべて共通したシャシーをベースにしています。
トヨタの型式は前半が「エンジン名」、後半が「シャシー名」を表しており、型式が同一ということは、エンジンとシャシーが共通していることと同意です。
AE86の場合、A型エンジンとE型シャシーを組み合わせているので、このように名付けられています。
ボディタイプ | 2ドア ノッチバッククーペ 3ドア ファストバッククーペ |
全長 | レビン:4,180mm トレノ:4,215mm |
全幅 | 1,625mm |
全高 | 1,335mm |
ホイールベース | 2,400mm |
重量 | 900~925 kg(2ドア) 935~940 kg(3ドア) |
そのため、ボディ寸法も前期・後期で共通です。
トレノ・レビンは初代モデルの登場から姉妹車という関係にあるので、前モデルである「TE71」型のシャシーをそのままベースにしています。
もしAE86を買おうと考えているなら、あわせて正しい値引き交渉のやり方も覚えておくといいですよ。
このやり方を知らないと最大60万円以上も損しますよ。詳しく知りたい方は、下記の『たった1分で車を60万円値引きできる裏技』のページをご覧ください。 たった1分で車を60万円値引きできる裏技!安く購入する秘密のテクニックとは?!AE86の前期と後期の違い
AE86の大体のイメージはつかめてきたかと思います。それでは、モデルチェンジで変更された部分について解説していきましょう。
違い① ランプ類
ランプ類はモデルチェンジで変更の多いポイントですよね。
AE86も前期・後期で異なる形状になっているので、見分けるのに一番わかりやすい部分です。
ウィンカー
AE86型は、トレノ・レビン共にウィンカーとヘッドランプが別体になっています。
前期型はヘッドランプ真下、フロントバンパー正面に収まるようになっていますが、後期型では横に大きくなり、バンパー側面に回り込む形状に変更。
方向指示が側面からも確認できるので、安全性が高まっています。
ヘッドランプデザイン
ヘッドランプは形状的な変更はありませんが、配色が少し違います。
トレノは橙×透明の組み合わせだったのが、橙一色へと変更。レビンはヘッドランプ上部に白いラインが入っています。
これは「グレア光」をカットするためのモールです。グレア光とは視界を悪くする光のことですね。
テールランプデザイン
トレノ・レビンは後ろ姿が似ており、判別が難しいといわれていました。
そこでトヨタは、トレノの販売を伸ばすために3ドアモデルのリアビューを変更。
後期型では、前期でナンバー上部に設置されてた「TOYOTA」プレートを排し、さらにテールレンズ横長へと拡張します。
トレノの場合はレンズ上部を赤、レビンの場合は前述した「グリア光カットモール」に配色を変え、それぞれにキャラクターを与えました。
テールランプの仕様変更にともないトランクの形状も変えているので、前期型と後期型ではテールレンズの互換性がありません。
違い② バンパー形状
次に外観の違いで分かりやすいのは、フロントバンパーの形状。
ベースは同じですが、ディティールが微妙に異なります。
レビンのバンパー形状
前期レビンのAPEXは「エアロダイナミックグリル」というもので、水温が上がったときに開口して、外気を取り込む仕組みです。
APEX以外は「スリットタイプ」のグリルが採用されており、常時外気を供給できます。
エアロダイナミックグリルは一時人気がありましたが、実際には吸気効率が低かったので、スリットタイプに変更されることが多かったですね。
後期型ではこの点が改善され、全グレードでスリットのない形状のグリルに変更されました。
トレノのバンパー形状
トレノはバンパー上部のデザインに手が加えられました。
前期型はバンパー上部が平らになっていますが、後期型ではグリルの部分が盛り上がっており、若干ボリューム感が増しています。
トレノといえばツートンカラーが定番ですが、バンパーの意匠変更によって、塗分け方も変えられています。
色使いにメリハリがあるので、後期型のフロントマスクを支持する人が多いですね。
違い③ ドライブシャフト
3つ目の変更点は「ドライブシャフト」、つまり目に見えない部分です。
1985年に行われた2度目のマイナーチェンジで変更され、走行性能が高められました。
スプライン部の太さ
マイナーチェンジ前後を比べると、後期型の方がドライブシャフトが太くなっていることがわかります。
前期型は「スプライン」部が細く「ねじ切れ」が頻発していたため、剛性を高めるために太く設計されました。
スプラインとはシャフト先端の噛み合わせ(歯車のようなもの)のことで、タイヤ側を「アウタージョイント」、ディファレンシャル側を「インナージョイント」といいます。
この部分の太さが異なるため、前期・後期では「ディファレンシャルギア」の互換性がありません。
幻の2.5期モデル?
ハチロクファンの間でひそかに語られているのが「2.5期」の存在です。
1~3期までのモデル名で通称されるAE86ですが、3期(後期)モデルの中に、ドライブシャフトの規格が少し違うものが存在していました。
「外観は後期なのに、スプライン径は前期」
という奇妙なドライブシャフトを搭載することから「2.5期」と呼ばれ、ある意味レアな車両として扱われていました。
「ドリフトのために後期用のデフを注文したら、なぜかスプライン径が合わない…」
ディファレンシャルギアの交換で泣かされた2.5期オーナーも多いことでしょう。こういった逸話が面白おかしく語られるのは、ハチロクが愛されてる証拠ですよね。
細かい違い
といった具合に、一般的に「前期・後期の違い」として紹介されるのはこの3点です。
他にも細かい変更点はいくつかあるので、簡単に紹介しましょう。
ドアミラー
1型のミラーは「スプリングリターン式」なので、たたむことができません。
1度目のマイナーチェンジでミラーが「可倒式」に変更され、2型からはミラーをたためるようになります。
停車中ミラーが格納されていれば後期型の確立が高いですね。
内装色
前期型は内装が「ワイン×ブラック」「クリーム×ネイビー」の2種類ですが、後期型は「グレー×ブラック」のみとなっています。
イメージとしては、前期がスポーティ、後期はシックな雰囲気です。色味のある内装は前期と覚えましょう!
前期と後期をどっち買えばいいか
というわけで、前期・後期の違いについて解説してまいりました。
車両選びについて、「走行性能」「内装の質感」「安全性」を考慮すると、やはり後期型がおすすめといえますね。
ただし、この手の車を購入する場合は、前期・後期に「特別なこだわり」がなければ、車両状態のよさを第一に優先するべきでしょう。
30年以上前の車で、なおかつスポーツ走行で人気だった車種ですから、損傷や摩耗が激しい個体が多いです。
もともとのタマ数も少ないので、高い希少価値も相まって「状態のいい個体」というのはかなり貴重。
状態のいいエンジンがあるなら、廉価モデルの「AE85」を箱入れ用に探すのもアリです。
旧車は大人のロマンですから、ここはじっくり時間をかけたいところですね。
なお現在の86については以下の記事で取り上げているので、興味のある方はこちらもご参照ください。
トヨタ86(ハチロク)の試乗レビュー・感想!乗り心地はいかに?!【画像/写真】トヨタ86の内装/インテリア!運転席周りや後部座席から荷室/トランクまで紹介!