誰もが知っている「ジープ」という車。
しかし、いまいち漠然とした認識で語られているのが実際のところです。
SUV全般がジープというジャンルだと思っている人もいるし、ジープという車名だと思っている人もいます。
その無骨な外観から分かるとおり、ジープの発祥は軍用車。
ジープとは、軍用車の万能性を民生化させた車であり、そのブランド名が「ジープ」です。
この記事では、ジープがどこの国の車なのか、ジープと国産SUVでは何が違うのかを徹底解説します。
ジープはどこの国の車か?
ジープの元祖は、第二次世界大戦時にアメリカ陸軍が自動車メーカーに製造要請した小型四輪駆動車です。
ジープの歴史
時は第二次世界大戦中。前線での物資の運搬や弾薬輸送、強行偵察任務など、陸戦における高機動の小型車両の有効性に注目したアメリカ陸軍は、
- ゼネラルモーターズ
- フォード
などの大規模メーカーから
- ウィリス・オーバーランド
- アメリカン・バンダム
など小規模メーカーまで、全米に135社あった自動車メーカーに対して軍用車両の製造オファーを要請しました。
その要求スペックは
- 隠密性の高い小型かつ頑丈で、悪路も走破できる四輪駆動車
- 地雷を踏んでタイヤ4本のうち2本を失った場合でも、スペアタイヤを含めた残り3本で100kmの走行が可能であること
- 車載工具ですべての修理が可能であること
という難しい条件。
結局、オファーを受けたのは経営不振にあえいでいたアメリカン・バンダム社のみでした。
バンダム社は、軍が要求する車重こそ達成できなかったものの、強靭な構造ハシゴ型のラダーフレームに、シンプルなリーフスプリングで車軸ごと懸架するリジッドアクスルにて車体を設計。
アメリカン・バンダム社が製作した試作車は、1ヶ月間にわたる過酷なテストに合格し、その基本性能の高さが実証されました。
そしてこの構造は、本格SUVに採用されるラダーフレームとリジットアクスルを持つ現在のオフローダーの原型となっています。
しかしテストには合格したものの、量産体制が整っていないアメリカン・バンダム社では増産は難しいとの軍部の判断により、その設計図をウィリスとフォードにも公開。
3社による改良された二次試作車の製作がおこなわれ、完成したのが
- バンダムBRC
- ウィリスMA
- フォードGPW
の3車。
そのなかで性能に優れた「ウィリスMA」と、機能デザインに優れた「フォードGPW」をかけあわせて再設計された車がジープの元祖となる車両です。
ちなみにジープは性能に優れた車ではありますが、実は故障率が低いわけではありません。詳細は以下の記事で解説しているので、興味のある方はこちらもご参照ください。
ジープは故障が多い?壊れやすいのか故障率をもとに解説!ジープの名前の由来
同設計で製造された「ウィリスMA」「フォードGPW」が戦闘前線で活躍すると、この車両は兵士立ちの間でいつしか「ジープ」という愛称で呼ばれるようになりました。
なぜ「JEEP(ジープ)」と呼ばれはじめたのでしょう?
その理由は諸説あるようですが、「General Purpose(万能)」を意味する「フォードGPW」が訛って「ジープ」となった説。
また、アメリカの国民的人気漫画「ポパイ」に登場し、超能力であらゆる問題を解決するキャラクター「ユーシン・ザ・ジープ」と軍用車として万能である「ウィリスMA/フォードGPW」を引っ掛けたという説。
あるいはアメリカのスラングで、万能なものや優れたものを「ジープ」と呼ぶ習慣があり、それが普遍化したという説。
さまざまな説がありますが、その真相は定かではありません。
いずれの説にせよ、使う人が尊敬と愛着の意味を込めて「ジープ」と呼ばれるようになったのは確かです。
ジープの現在
第二次世界大戦後、ジープの商標はウィリスが所有していましたが、1953年に米ミシガン州のカイザー=フレイザーがウィリスを買収し、ジープの製造権利を取得。社名をカイザー=ジープとしました。
1970年には、アメリカン・モーターズがカイザー=ジープを買収。
そのアメリカン・モーターズは、フランス・ルノー傘下となりますが、アメリカン・モーターズをアメリカ・クライスラーが吸収。
ルノーはどこの国の車?国産車との違いはこの3つだ!そのクライスラーも1998年にドイツ・ダイムラーベンツと合併し、ダイムラークライスラーとなりました。
ベンツはどこの国の車?国産車との違いはこの4つだ!しかし業績が上がらず2007年に売却されることとなり、売却された株式を取得したイタリア・フィアットが現在のジープの商標を持っています。
現在のジープは、イギリス・ロンドンに本社を置くフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)の、クライスラー部門のいちブランドとして存在しています。
もはや国籍不明ともいえるジープですが、フォードGPWの特徴であった縦スリットグリルをジープブランドの顔としつつ、アメリカとヨーロッパのデザインが入り混じったグローバルなスタイリングのSUVをつぎつぎと販売しています。
なかでも、ジープ ラングラーは「ウィリスMA/フォードGPW」の面影を今に残す本格なアメリカン・オフローダーの金字塔として現在においても特別な存在感をしめしています。
日本では、FCAジャパンとして
- アルファロメオ
- フィアット
- アバルト
- ジープ
を広く取り扱うフィアットグループの販売チャンネルで販売されています。
もしジープの購入を考えているなら、値引き交渉の正しいやり方を覚えておくといいですよ。
このやり方を知らないと最大60万円以上も損しますよ。詳しく知りたい方は、下記の『たった1分で車を60万円値引きできる裏技』のページをご覧ください。 たった1分で車を60万円値引きできる裏技!安く購入する秘密のテクニックとは?!ジープのアメリカでの扱い
企業合併統合が繰り返され、一国に籍を置く自動車メーカーではなく、ライセンスブランドとして存在するジープは、ジャガーやボルボと同じく権利所有者が誰であっても侵しがたい真髄を持つ、世界を代表するビッグネームブランドにまで成長しました。
ジャガーはどこの国の車?国産車との違いはこの3つだ!ボルボはどこの国の車?国産車との違いはこの3つだ!アメリカ陸軍の要請で生まれたジープは、第ニ次世界大戦で勝利に貢献した兵器として「C-47輸送機」「60mmロケットランチャーM1」に並ぶ称賛を受けています。
戦後もジープは民生車として生産され続け、帰還兵には戦場で使い慣れたジープが日常の足として人気で、アメリカンマッスルカーやピックアアップトラックとはひと味違った、便利で頑丈な大衆車としてアメリカの生活に根付いています。
次々と変わる権利所有者と自動車のデザイントレンドのなかで、欧州テイストが入り込んだグローバルブランドとなったジープは、オフローダーとしての堅牢な悪路走破性を誇りながら、スタイリッシュなルックスをもつラグジュアリーSUVの生産へと移り変わっていきます。
【画像】ジープはかっこいいのか?デザインについて徹底分析!それほど高価ではないものの、軍用車両として生まれ、精悍なスタイルに育ったジープは、愛国心あるアメリカンセレブの間でも人気の車となっています。
ジープと国産車との3つの違い
ジープのなかでもラングラー以外の車種は、親会社の他車種とプラットフォームを共通化しており、ジープ独自の車とはいいきれなくなっています。
ジープの現在のラインナップは以下の5車種です。
- レネゲード 299万円〜:タウンユースも考慮したジープ最小モデル
- コンパス 323万円〜:利便性と快適性を備えたミドルクラスのジープ
- ラングラー 396万円〜:軍用車の流れを汲む本格オフローダー
- チェロキー 494万円〜:ラグジュアリー性を重視した大型ジープ
- グランドチェロキー 500万円〜:ジープのフラッグシップモデル
同価格帯で似たスペックを持つ国産オフローダーの代表としてトヨタ ランドクルーザープラドとジープ ラングラーとを比較します。
違いその1:前後リジットアクスル
トヨタ ランドクルーザープラドは本格的なオフローダーとはいえ、想定される使用環境のほとんどが舗装路のため、オンロード性能を向上させなければ車としての商品価値が下がってしまします。(ランクルの詳細は以下の記事をご参照ください。)
ランクルの走破性を徹底解剖!クロカン・オフロード性能はいかに?!そのため、それまで前後リジットアクスルを貫いてきたランドクルーザープラドも、オフロードとオンロードのバランスを取るため、フロントのみ独立懸架となりました。
ジープのラインナップも同じ理由で独立懸架へと変更されていますが、ラングラーだけは別。
軍用車両派生のオフローダーというジープの名にかけて、ラングラーはオンロード性能を犠牲にしてでも、オフロード性能に特化したリジットアクスルを採用し続けなければならない宿命が与えられています。
違いその2:セブンスリットグリル
軍用フォードGPWで確立された縦スロットグリルが特徴のフロントフェイスは、重要なジープのアイデンティティとなっています。
特に伝統的な丸目ヘッドライトが与えられるラングラーは誰もが一目でジープと分かる、まさに「ジープの顔」です。
トヨタ ランドクルーザーに限らず、国産車は定期的にフェイスデザインを刷新しますが、それはマーケットや他車種との兼ね合いを意識したデザイン変更が必要なのでしょう。(ランクルのデザインの詳細は以下の記事をご参照ください。)
【画像】ランクル(ランドクルーザー)はかっこいいのか?デザインについて徹底分析!ジープは全車種に7本の縦スロットグリルが備えられ、歴史あるジープの車であることを主張します。
SUV専売ブランドとしての地位を確立したジープでなければ、この一貫性あるデザインは維持できないものです。
違いその3:ジープというブランドイメージ
前後リジットアクスルも、ジープ伝統のセブンスリットグリルも、全ては「ジープ」というブランドイメージを貫くためのもの。
ジープの価値とは、長い歴史と伝統が築き上げたストーリーの重厚さであり、これに対抗できるのは、同じく軍用車両として誕生したイギリスのランドローバー・ディスカバリーとドイツのメルセデス・ベンツ・ゲレンデヴァーゲンだけでしょう。
それらの価値は「ジープを所有している」というある種の優越感となり、嗜好品として所有する側面もある車とは、切っても切り離せない感情です。
ジープはアメリカ車のなかでも伝統的な人気車
近年の著しい自動車のグローバル化によりは、国ごと、メーカーごとの差異が少なくなってきています。
コスト削減のため、プラットフォームやエンジンは共通化され、違うのは外観と細かな性能差のみ。
特に用途が限定されるオフローダーは、ラダーフレーム+前後リジットアクスルというパッケージがオフローダーとしての現段階における究極の形として世界共通認識となっており、性能や使い勝手を比べれば、いまやジープよりも優れた車はたくさんあります。
しかし、ジープはやはりジープ。歴史と伝統が築き上げたジープブランドは、変えることも、真似することもできない唯一のものです。
販売が低迷しつつあるアメリカ車のなかでも、ジープだけは現在でも高い人気を誇り、そのほとんどが「指名買い」される事実がそれを物語っています。
ジープについては以下の記事でも解説しているので、興味のある方はこちらもご参照ください。
ジープは故障が多い?壊れやすいのか故障率をもとに解説!ラングラーがキャンプに最適な理由7つ