ディーゼルエンジンはガソリンエンジンと並んで自動車用エンジンの主流のエンジンですが、ディーゼルエンジンには「エア抜き」という特有のメンテナンスがあります。
今回はディーゼルエンジンのエア抜きについてご説明していきます。
ディーゼルエンジンのエア抜きとは?
一般的にディーゼルエンジンのエア抜きと言われる作業は、正式には「燃料系統内のエア抜き」と呼ばれます。
その名称の通りディーゼルエンジンの燃料系の配管やポンプなどに混入した空気(エア)を抜くための作業であり、状況によってディーゼルエンジンの構造上必ず必要な作業になります。(構造の詳細は以下の記事をご参照ください。)
ディーゼルエンジンとは?仕組み/構造を簡単にわかりやすく解説!燃料系統と一口にいっても様々な部品が関係しており、エンジンから燃料タンクまでつながる全ての燃料系部品を指します。
エンジン側から順に説明すると、シリンダーに噴射するインジェクター、コモンレール、燃料ポンプ、燃料フィルター、燃料タンク、そしてそれらを接続する燃料配管や燃料ホースなどです。
ディーゼルエンジンは自動車メーカーで製造される時には必ずエア抜きがされており、普通に車を走らせている間は基本的にはエア抜きは不要です。
ですが次のような状況では燃料系統にエアが混ざる状況があり、エア抜きの作業が必要になります。
燃料系統の修理時
燃料系統にはさまざまな種類の部品が組み合わされており、部品の経年劣化や突発的な故障、事故などでの損傷などで、修理が必要な状態になることがあります。
そのときには部品の脱着や部品交換などを行って燃料系統を切り離すのですが、再組み立ての際にはかならず燃料系統のどこかにはエアが噛み込みます。
燃料系統の修理で多いのは燃料配管や燃料ホースの部品交換で、樹脂やゴムホース、金属配管などで構成されるこれらの部品は経年劣化による破損がほかの燃料系統部品より起こりやすいものです。
とくにゴムホースは10年程度で硬化してしまって燃料漏れの可能性があるので、定期交換部品の一つになっています。
そのため年式の古いディーゼルエンジン車は必ずと言ってよいほど燃料系統の修理が発生しますので、エア抜きが必要となります。(寿命については以下の記事をご参照ください。)
ディーゼルエンジンの寿命/耐久性は走行距離や年数だとどれくらい?ほかにディーゼルエンジンの燃料系統で故障しやすい場所はエンジンに固定されている高圧燃料ポンプで、このポンプはいまでは20気圧もの高圧燃料を作り出すための部品なので、非常に負荷が高く経年劣化による故障が起こりやすい部品です。燃料ポンプの修理にも部品交換が必要で、この際にもエアは混入します。
これらの状況では部品修理完了後には必ずエア抜きの作業が発生しますが、基本的にはディーラーや修理工場でエア抜きまで行われるので、私達はあまり関係しないことがほとんどです。
ガス欠の後
ディーゼルエンジン車のドライバーがエア抜きの作業を行わなければならない状況としては、車が完全にガス欠をして、その直後に給油を完了した後です。
ガス欠と一口に言ってもいくつかの段階があると思いますが、運転席についている燃料系がE(エンプティ)に達したときのことではなく、今回問題とするのはそれ以上に燃料を消費して燃料タンクが完全に空になったときのことを指します。
燃料系がEになっても燃料タンクの中には予備タンク分として燃料が残っており、ガソリンスタンドまで十分走行できるだけの燃料はまだあります。ですがその状態で長い距離を走ってしまえば、そのうちタンクは完全に空となります。
タンクが空になってしまうと、エンジンにある燃料ポンプで燃料を吸い出すと一緒に必ずエアが混ざってきます。
燃料タンクが完全に空になる前にエアは少しずつ混入するので、エンジンがまだ動いている間にもエア混入は起こっており、その後エンジンに燃料が完全に届かなくなるとエンストが起こって車が止まります。
その後車をガソリンスタンドまで運搬して、燃料を満タンに給油したとしても、タンクからエンジンまでの間の燃料配管の中にはまだ空気が多く混在しており、それを解消するためのエア抜き作業が必要です。
ガソリンスタンドの店員が作業できればお願いしても良いのですが、セルフスタンドしかなければドライバー自らがこのエア抜き作業を行わなければなりません。
エア抜き作業のやり方については後ほど詳しくご説明していきます。
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ディーゼルエンジンのエア抜きをやる理由
燃料系統のエア抜きという作業はディーゼルエンジンのみ必要な作業で、ガソリンエンジンではこの作業は不要です。
というのもディーゼルエンジンとガソリンエンジンでは燃料系統の構造はかなり違っており、その差がエア抜きという作業の有無につながっています。
燃料系統のシステムの違い
ディーゼルエンジンとガソリンエンジンの燃料系統の違いは燃料ポンプの位置にあり、ディーゼルエンジンはエンジン側に、ガソリンエンジンは燃料タンクにポンプがあります。
どちらのポンプも燃料タンクからエンジンまで燃料を送るための部品ですが、ポンプの働きが正反対です。
ガソリンエンジンは燃料ポンプが燃料を押し出す圧送式で、タンク内の燃料に圧力をかけてエンジンまで送っています。(仕組みの詳細は以下の記事をご参照ください。)
ガソリンエンジンのメリット3つとデメリット5つ!仕組みと将来性の特徴を解説!ですがディーゼルエンジンはエンジンにあるポンプが燃料を吸い出す負圧式で、タンク内の燃料をエンジンが吸い込む方式です。
この燃料ポンプの搭載位置の違いはそれぞれのエンジンが必要とする燃料噴射圧力の違いにあり、ディーゼルエンジンは高い圧力でエンジンに燃料を噴射する必要からエンジンに強力なポンプが設置されます。
そうすれば燃料タンクからポンプまでの間はそこまで高圧の燃料にならないので、配管への負担削減やコスト削減ができるのです。
ですがガソリンエンジンはそこまでの高圧は不要で、直噴ガソリンエンジンを除けば燃料タンクから圧送する程度の圧力で十分なのです。
直噴エンジンとは?メリット3つとデメリット4つ!不具合と耐久性が欠点?!ディーゼルエンジンのような負圧式では、負圧で吸い込む途中の配管内に少しでも空気が噛んでいると燃料の供給が満足にできず、必ず配管内が燃料で満たされていなくてはなりません。
そのために行う作業が燃料系統のエア抜きで、これをしなければエンジンに燃料は届かず始動すらできないのです。
エア抜きの方法
ディーゼルエンジンの燃料配管は、車の後部のタンクから前部のエンジンまで繋がっている長い配管で、普通に考えるとその途中のどこかに噛んでいる燃料系統からエアを抜くのは大変に思えてしまいます。
ですがディーゼルエンジンの部品の一つである燃料フィルターには標準的にエア抜き用のポンプが装着してあり、それを操作するだけでエア抜きができます。
燃料フィルター(セジメンタ)は燃料タンクから燃料ポンプまでの間にあり、主な役割は燃料内に混ざったゴミと水分の除去にあります。
設置場所は乗用車ではエンジンルームの上側に、トラック系の車種ではエンジン後部のフレーム部などに設置されています。そしてエア抜き用のポンプは燃料フィルターの上部にあり、これを手で何度も押すことでエアを抜きます。
ディーゼルエンジンのエア抜き作業は手動で行うことがほとんどですので、燃料フィルター設置位置は必ず手が簡単に入るような位置に設定されています。
割と大型の円筒形の部品なのでトラックなどでは車外からもぱっと見えることがありますが、乗用車系の車種ではエンジンルームの他の部品と並んでポンプ部のみが見えている場合も多いです。
なおガソリンエンジンにも燃料フィルターはありますが、ディーゼルエンジン用ほど複雑ではなく、フィルター構造のみの単純な部品です。
ディーゼルエンジンのエア抜きをやる手順・方法
ディーゼルエンジンのエア抜き作業の手順はそこまで難しいものではなく、一度体験してみれば誰でも簡単に実施できるものです。
作業手順としては次のわずか3ステップで完了します。
エア抜き作業の3ステップ
燃料系統のエア抜きは次の3つのステップで行います。
- 燃料タンクに燃料をしっかりと給油しておき、空気の入る大本をなくします。
- 燃料フィルターのエア抜き弁やボルトを緩め、エア抜きができる準備をします。
- 手動ポンプを何度も押すことで少しずつ燃料系統からエアが抜けていき、エア抜きが完了したら再度エア抜き弁やボルトを締め付けて作業は完了です。
最初エアが多く混入しているときにはポンプは比較的軽いのですが、エアがどんどん抜けていくごとにポンプが重たくなっていくので、作業の後半にはかなりの力が必要な作業です。
ポンプが重たくなればエアが抜けてきた証拠とも言えるのですが、後半は片手では押すのが難しいほど重たくなるので、両手で押し込む必要があります。
力の弱い人にはなかなか大変な作業になるかもしれませんが、うまく両手で押せるような体制を作ることが重要です。
これら一連の作業は車に必ず搭載されている取扱説明書にも記載されているので、まずは取扱説明書をしっかり読んでから作業をしましょう。
エア抜き作業の費用
エア抜き作業は個人でも十分可能なレベルのメンテナンスですが、費用をかけることで他者に依頼することが可能です。
作業はディーラーや修理工場などに依頼することが可能で、作業料金としては3,000円前後とそこまでかかりません。ですがエア抜きが必要なときというのは前述したように燃料系統の修理の際が多く、通常はエア抜き料金は修理費用に加算されています。
またガス欠の場合にはガソリンスタンドやディーラーまでの輸送費用がかかったりするので、それと含めて修理費用となっているかもしれません。
そういった状況を考えるとあまり個人で作業する機会は少ないのですが、ディーゼルエンジン車に乗っているのであれば知識として理解しておく必要があります。
なおディーゼルエンジンについては以下の記事でも取り上げているので、興味のある方はこちらもあわせて参考にしてみてください。
(クリーン)ディーゼルのメンテナンスのポイント5つ!費用や水抜き、アドブルーまで解説!(クリーン)ディーゼルのエンジンオイル交換ガイド!頻度や費用など全て解説!