現在ディーゼルエンジンはクリーンディーゼルエンジンという環境性能の高いエンジンであり、排気ガスも昔よりはかなり浄化されています。
ですが街中ではたまにテールパイプから黒い煙を吐いているディーゼルエンジン車も見かけるのですが、今回はこの黒鉛の原因や対策についてご説明していきます。
ディーゼルエンジンの黒煙の原因
ディーゼルエンジンというエンジンは昔から自動車用として使われているエンジンですが、その大きな問題点として昔から上がっていたのが黒煙の問題です。
ディーゼルエンジンの正常稼動時にはどうしても黒煙の発生があり、自動車だとテールパイプから真っ黒な排気ガスが出ていました。
ですが最新のディーゼルエンジンである「クリーンディーゼルエンジン」には黒煙の原因物質であるPM(粒状黒鉛)の処理装置が搭載されており、現在のディーゼルエンジンはもはや黒煙が排出されるエンジンではありません。
ですが今でもたまに黒煙を吐き出している自動車が見られるのも事実で、それにはきちんとした原因があるのです。
まずはディーゼルエンジンの黒煙の発生原因とその処理装置について、その後に黒煙が出てしまう原因をご説明します。
クリーンディーゼルの黒煙処理技術
ディーゼルエンジンの黒煙はエンジンの構造上避けられないものですが、その処理技術は現在では確立しており、エンジンから排出される99%以上のPMの排出抑制ができています。
ディーゼルエンジンの黒煙の原因
ディーゼルエンジンはその燃焼に圧縮着火という方法を使っており、燃料の温度を高くすることで自己着火を起こして燃焼を行います。(仕組みの詳細は以下の記事をご参照ください。)
ディーゼルエンジンとは?仕組み/構造を簡単にわかりやすく解説!ですがエンジン負荷が低いときなどには、エンジンの燃焼室内で燃料と空気の混合が不十分な箇所があり、そこにある燃料は空気不足で不完全燃焼を起こします。
不完全燃焼を起こした燃料は燃えカスとして非常に細かい粒子のPMとなり、それが排気ガスに混ざることで黒煙となります。
このPMは大気中に放出されると肺などの呼吸器に入り、肺がんなどの原因ともなる有害物質です。
各国の排気ガス規制ではこのPMの排出量規制が必ずあり、昔は規制が緩かったのでディーゼルエンジン車はバンバン黒煙を排気していたのですが、現在ではそれでは規制に通りません。
排気ガス規制に対応するためにはPMの排出を抑制するための技術が必要であり、主に次のような対処がされています。
黒煙の排出抑制技術
ディーゼルエンジンは性能の向上とともに燃焼効率が向上しており、昔よりPMの排出量自体も減少しています。
ですがPMが完全になくなるわけではなく、これを処理するためにはエンジンから排出直後の後処理技術が重要です。
PMの後処理技術には「DPF(Diesel particulate filter)」が不可欠であり、エンジン後部の排気管に設置されたこの触媒はPMの捕集、および無害化処理を行います。
DPFは内部のフィルター状の触媒にエンジンから排出されたPMをいちど回収し、この時点で排気ガスに含まれるPMの99%以上がなくなります。
DPFを通った後の排気ガスはもはや黒煙にはなっておらず、白いハンカチをテールパイプにかざしても目視できるような黒い点は全くつかないほどです。
DPF内部に捕集されたPMはある程度までフィルター内部に貯まり続けますが、その後PMを再燃焼する「再生」という行程に移ります。
PMを無害化するためには再燃焼させて完全燃焼させることが必要で、エンジンから排出される排気ガスの温度を高くすることでPMの再燃焼を行います。
これにより捕集されたPMは二酸化炭素などに無害な気体に変換され、そのまま排気ガスとして排出されるのです。
このDPFの実用化によりディーゼルエンジンは環境性能を高めたクリーンディーゼルエンジンへと進化しており、現在ではほぼ全ての自動車用ディーゼルエンジンにはDPFが必須です。
クリーンディーゼルエンジンの黒煙排出
クリーンディーゼルエンジンは正常な状態では黒煙の排出などないはずなのですが、実際に道路で見るトラックなどが黒煙を吐き出している場面も見かけます。
現在国内で走っているディーゼルエンジン車は排気ガス規制からDPFの搭載は欠かせません。
DPFの無いディーゼルエンジンは排気ガス規制をクリアできないので、そもそも車検に通らず一般道を走行できないのです。
昔からあるディーゼルエンジン車は後付けのDPFを設置したりしていますが、2000年以降の完成車に関してはほぼDPFが標準装備となっています。
ですがDPFの処理能力は走行距離とともに劣化するものであり、劣化の進行したDPFには正常の処理能力は望めません。
PMの捕集能力が限界に達したり、DPFのフィルター部分が破損したりすれば、PMが捕集できず排気ガスにPMが混在します。
このような状態になったディーゼルエンジン車が黒煙を発しているのであり、一般的には整備不良として法律に違反する状態でもあります。
こういった状態のディーゼル車は基本的には公道走行が不可ですが、現実にはDPFが故障した状態で走っているディーゼル車も跡を絶ちません。
なおクリーンディーゼルエンジンについては以下の記事でさらに詳しく解説しているので、詳細まで知りたい方はこちらもあわせて参考にしてみてください。
クリーンディーゼルエンジンとは?メリット2つとデメリット3つ!仕組み/構造の特徴まで解説!迷惑黒煙の通報制度
黒煙を吐きながら走行しているような車は道路上でも迷惑であり、後ろにつくようなことがあれば真っ黒な煙にさらされることとなります。
そのような場合には国や県などへの通報制度があり、届け出をすることで国や県などから指導や車検命令などが黒煙を吐き出している車の持ち主に対して出されます。
即効性のある対策ではありませんが、迷惑と考えたらぜひこの制度を活用していきましょう。参考として国の「迷惑黒煙通報制度」へのリンクをご紹介します。
参考 迷惑黒煙の通報制度国土交通省これとは個別に各都道府県単位でも同様な制度があるところもあり、通報するのはどちらかでかまわないでしょう。
毎年数千台単位で通報されている実績もあり、私達でもできることがあるということです。
なおディーゼルエンジンのPM(煤)の問題については以下の記事でも解説しているので、興味のある方はこちらもあわせて参考にしてみてください。
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ディーゼルエンジンの黒煙の対処法
もしクリーンディーゼルエンジンのテールパイプから黒煙が出るようになったら、それはDPFが故障しているということですので、修理が必要です。
DPFは普通に使っている状態でも少しずつ劣化するもので、乗用車用だと走行距離100,000kmで寿命が来るように設計されていることが多いです。
DPFにPMを捕集してそれを再生すると処理能力は下がっていきますが、寿命までは十分な処理能力があります。
ですが寿命をすぎればいつ故障するかはわからず、最終的にはPMを捕集できずに排気ガスに黒煙が混ざるようになります。
基本的にはそこまで故障する前にDPFは交換したほうがよく、走行距離が100,000kmを越えたらDPF交換が必要です。
DPFはエンジン部品としては結構高価な部類に入っており、触媒部分の効果のみでも150,000円前後かかります。またDPFにはさまざまなセンサー類が設置されているので、これらも一緒に交換することになると200,000円前後が必要となります。
もし黒煙が出るまで故障しているような場合は基本的に自走できませんので、ディーラーや修理工場までの輸送費用も必要です。
クリーンディーゼルエンジン車を長期間乗り続けるならDPFの交換は必須なので、寿命をしっかり把握して事前に交換しなければなりません。
なおディーゼルエンジンの寿命については以下の記事でさらに詳しく解説しているので、詳細まで知りたい方はこちらもあわせて参考にしてみてください。
ディーゼルエンジンの寿命/耐久性は走行距離や年数だとどれくらい?ディーゼルエンジンの黒煙の予防対策
クリーンディーゼル車から黒煙が出ないような予防対策は基本的になく、DPFの寿命はそのうち必ず来てしまいます。
ですがクリーンディーゼル車は乗り方を気をつけることでPMの発生を減らしたり、DPFの再生を効率的に行うことができます。
ディーゼルエンジンは低負荷時にPMを多く発生させる特徴があり、車の走り方として低速走行ばかり続けないようにすればPMの発生が少なくなります。
日本の道路条件では高速走行ばかり続けるわけにはいかず、低速走行が増える状況が多いのですが、少しでも速度を出して走れる道路を選ぶことが重要です。
またDPFがPMを再生するためには高い排気ガスの温度が必要で、それを生成するためにもエンジン負荷が高い領域が必要です。低負荷の領域が続くとDPFの再生が効率的に行えず、PMはDPFに貯まりがちになります。
DPFにPMが堆積しすぎると処理効率が落ちたり、最悪DPFの溶損という故障にもつながるので、DPFが付いた車というのは積極的にエンジンを使うような運転が必要なのです。
クリーンディーゼル車はこういった走り方を心がけることでDPFの寿命を長く維持することができ、結果的に黒煙が出にくくなる走り方ともなります。
ディーゼルエンジンの車検の黒煙基準
ディーゼルエンジン車は車検時に必ず黒煙の発生量を測定されており、それにクリアできないディーゼルエンジン車は車検がクリア出来ず公道走行が不可能となります。
昔は車検時の黒煙の測定は目視によるものでしたが、2008年頃から電子的な測定装置が導入されその検査は厳しくなりました。
排気ガスによって測定装置から発せられる光が妨げられ、それを受光部で測定することで黒煙の量を測定しています。
現在の車検時の黒鉛基準は次のとおりとなっていますが、ポスト新長期規制車、およびオパシメーター測定車は近年のディーゼル車、黒煙測定車は昔の測定基準のときに製造された車です。
黒煙規制値 | 規制値 | 閾値(しきいち) | |
ポスト新長期規制車 | 光吸収係数 0.50m-1 | 光吸収係数 0.40m- | |
その他のオパシメータ測定車 | 光吸収係数 0.80m-1 | 光吸収係数 0.64m-1 | |
黒煙測定車(旧規制) | スクリーニング値 | ||
黒煙 25%規制車 | 光吸収係数 0.80m-1 | 光吸収係数 0.64m-1 | |
(黒煙 30%規制車(特殊自動車のみ)) | 光吸収係数 1.01m-1 | 光吸収係数 0.80m-1 | |
(黒煙 35%規制車(特殊自動車のみ)) | 光吸収係数 1.27m-1 | 光吸収係数 1.01m-1 | |
黒煙 40%規制車 | 光吸収係数 1.62m-1 | 光吸収係数 1.29m-1 | |
黒煙 50%規制車 | 光吸収係数 2.76m-1 | 光吸収係数 2.20m-1 |
それぞれの規制において規制値やしきい値の値は違いますが、基本的に昔の基準で製造されたディーゼルエンジン車というのは上記の基準ではクリアできず、後付のDPFの設置が必須となっています。
クリーンディーゼルエンジンでもDPFが故障してしまえば上記の規制にクリアできないようになってしまうので、車検時にはDPFが正常に作動していなくてはなりません。
もしクリアできなかったら車検の更新はできないので、その前にDPFのメンテナンスが必要となります。
また公道走行時に黒煙を吐き出しているような場合、その車は整備不良となり、即座にメンテナンスが必要です。
整備不良のまま走行を続けてしまうと、車検が取り消しされる場合もあり、そうなれば公道走行は不可能となります。
ディーゼルエンジン車は黒煙を吐くような車は現在は走行できませんので、かならずDPFが正常な状態である必要があるのです。
なおディーゼルエンジンについては以下の記事でも取り上げているので、興味のある方はこちらもあわせて参考にしてみてください。
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