フォルクスワーゲンは世界最大規模の自動車メーカーで、コンパクトカーなどの大衆車をメインにしています。
そんなフォルクスワーゲンですが、環境対応車であるハイブリッド車に関しては国内であまり見かけないと思います。
今回はそんなフォルクスワーゲンのハイブリッド車についてご説明します。
フォルクスワーゲンのハイブリッド車の特徴
ハイブリッド車はエンジンと電気モーターの両方を1台の車に搭載し、その両方を効率的に使い分けることで燃費を高める車種のことです。
現在は日本のトヨタ自動車がハイブリッド技術については先行しており、日本市場はハイブリッド車の激戦区となっています。
そんな流れを受けて近年は海外メーカーもハイブリッド車の開発を加速させており、フォルクスワーゲンも日本市場へ何車種か投入しています。
ですがフォルクスワーゲンも結構早い時期からハイブリッド車の開発には着手しており、国産メーカーより先行していた時期もあるのです。
まずはフォルクスワーゲンのハイブリッド車に関する歴史と、現在販売されている車のハイブリッドシステムをご紹介します。
フォルクスワーゲンのハイブリッド
フォルクスワーゲンはドイツ最大の自動車メーカーですが、その創業は以外にもメルセデス・ベンツやBMWより後の1937年です。
もともとがドイツの国民車を製造するために設立されたメーカーであり、高級車より大衆車を中心に開発、製造をしてきました。
フォルクスワーゲンの開発の歴史
フォルクスワーゲンは1990年頃には既に世界トップの販売台数を誇るメーカーに成長し、さまざまな先進技術の開発も行っています。
そのうちの1つにハイブリッド車も含まれていましたが、フォルクスワーゲン初のハイブリッド車が世に出たのは以外にももっと古く、1978年ごろにフォルクスワーゲンが限定的に生産したタクシー用の車両です。
当時既にハイブリッド車というタイプの車は広く研究開発が行われており、スポーツカーで有名なポルシェがその発明者ともいわれていることからドイツでも開発が進んでいました。
ただ現在のハイブリッド車に使われるような技術は当然ながらまだなく、このハイブリッド車はオペルGT(フォルクスワーゲン傘下)をベースとして当時手に入ったバッテリーやモーターを組み合わせたものでした。
それでも燃費は30km/L〜35km/Lを記録しており、走行性能などは別にしてもかなり良好な燃費だったといえます。
ですがこの車はタクシー用ということで一般には発売されずにモデルが廃止されましたが、その後もフォルクスワーゲンは数々のハイブリッド車の試作車を開発しており、1988年にはわずか20台のみではありますが試験車両を生産し、一般ユーザーに貸し出してモニター試験を行っています。
しかしその後フォルクスワーゲンは環境対応車の主軸をハイブリッド車からクリーンディーゼルエンジンに移しており、欧州メーカー各社もほぼ同様の戦略を取っていたため欧州市場でのハイブリッド車はほとんど登場しなくなります。
欧州と日本の方針の違い
そんな中1997年に発売されたのがトヨタの初代プリウスで、28.0km/Lという高い低燃費性能と2,000,000円台という低価格で登場したことにより一気にハイブリッド車が話題となりました。
欧州各社はハイブリッド車の価格が高騰したことから量産化を断念してディーゼル車に移ったこともあるのですが、この時点では国産メーカーと海外メーカーの環境対応への方針は大きく違ったことになります。
そのためフォルクスワーゲンはプリウスが性能を伸ばす中にあってもクリーンディーゼルエンジンをメインで開発し、その結果欧州市場は半数以上がディーゼル車が占めることになります。
ディーゼルエンジンはハイブリッド車ほど燃費は高くなりませんが、それでも燃費はよくまたCO2排出量も少ないなどのメリットもあり、走行性能の面でも欧州市場にマッチしています。
とはいえ2000年代に入ると環境対策強化の観点から、ハイブリッド車のような電動車は各国政府が法律などで一定割合の販売をメーカーに求めるようになります。
この流れからフォルクスワーゲンもハイブリッド車の発売が必要となり、2011年にフォルクスワーゲン初の量産車となるSUV「トゥアレグハイブリッド」が登場します。
SUVはこの頃世界的な人気の車種で、重量が重たく燃費が悪いのが欠点だったのでハイブリッド車の投入は話題となりました。
とはいえ燃費性能自体はそこまで高くなく、また価格が8,000,000円近いということで国内ではほとんど見かけることはありません。
その後もフォルクスワーゲンはいくつかの車種にハイブリッドを展開しますが、以前フォルクスワーゲンの環境対応のメインはクリーンディーゼルエンジンや、ダウンサイジングターボエンジンという小型過給エンジンでした。
しかしその状況が大きく変わるのは2015年のことです。
ディーゼル不正事件と環境の変化
欧州では2015年ごろまで以前ディーゼルエンジン車のシェアが非常に高く、ハイブリッド車は年々厳しくなる排気ガス規制をクリアしながら新型車が登場していました。
ですが2015年に「ディーゼルゲート事件」と呼ばれるディーゼルエンジンの排気ガス検査に関する不正が明らかとなり、フォルクスワーゲンを始めとして欧州メーカー全てを巻き込んでの大事件になりました。
クリーンディーゼルエンジンと呼ばれていたエンジンは排気ガス規制のクリアのために様々な技術を投入していましたが、そのためにコストがかさみ大きな問題となっていたのです。
そのためにフォルクスワーゲンなどは制御ソフトに細工を行い、試験時のみ排気ガス規制をクリアできるような不正を行っていたのです。
この問題が発覚したことでメーカー上層部の責任問題に発展しましたが、それ以外にも各国政府から動きがあり、将来的にディーゼルエンジン車やガソリン車を廃止するとの表明が相次ぎました。
その代わりハイブリッド車や電気自動車を将来の環境対応車に据えると発表した国が多く、欧州各国や中国が同様の発表を行っています。
これを受けて欧州メーカーもハイブリッド車の開発を加速する必要が出てきたため、近年欧州メーカーのハイブリッド車投入が相次いでいます。
フォルクスワーゲンも次世代型のハイブリッド車を登場させていますが、奇しくもその発売は2015年となりました。最新型のハイブリッドシステムに関しては後ほどご説明します。
フォルクスワーゲンのハイブリッドシステム
フォルクスワーゲンは現在最新のシステムとして「プラグインハイブリッドシステム」を投入していますが、基本的なハイブリッドシステムの構成はトゥアレグハイブリッドの頃から変わらず1モーター式のパラレルハイブリッドシステムとなります。
トヨタ プリウスなどは2モーター式のハイブリッドシステムですが、これは燃費性能は優れるものの制御が難しく、また高コストです。
1モーター式は比較的安価に構成できることからトヨタ以外のメーカーはほとんどがこのシステムで、主にエンジンとトランスミッションの間にモーターが挟み込まれる形です。
モーターの制御にはインバーターを使い、またモーター駆動用の大型バッテリーを持ちます。これらモーター、インバーター、バッテリーの3部品がハイブリッドシステムの中核となります。
トゥアレグハイブリッドの場合には3.0L V6スーパーチャージャーエンジンと8速ATにモーターが組み合わされた構成となっており、エンジンの大出力を活かした走行性能の高さが魅力でした。
ですがエンジンの燃費自体が低い上に、モーターとエンジンの間にトルクコンバーターがあることで燃費を悪化させる要素もあり、全体的に燃費性能についての魅力が低くなっていました。
そのためトゥアレグも、その後に登場したパサートハイブリッドも販売面では成功せず、数年でモデルは廃止されています。
ですがその後に登場したプラグインハイブリッドではその特徴は改善され、燃費性能は高くなっています。
フォルクスワーゲンのプラグインハイブリッド
プラグインハイブリッドで大きく変更となった点はハイブリッド用の駆動用バッテリーを外部から充電できるようになった点で、そのための充電装置が追加されます。
従来のハイブリッド車はバッテリーの充電は回生発電などで行いますが、それは結局エンジンが生み出した走行エネルギーを元にしています。
ですがプラグインハイブリッドで外部から直接充電できれば、それだけエンジンの稼動を抑えられることから燃料消費量が減り、燃費を大幅に向上させることが出来ます。
またプラグインハイブリッドではモーターのみでの走行が50km前後行えるため、日常使いであれば行き帰りの往復を全てモーター走行だけで行うことも出来ます。
そうすれば充電を繰り返すだけでエンジンを全く動かさなくてもよくなり、燃料消費量をほとんど無くすことも可能です。
この点からハイブリッド車としてはより電気自動車に近いシステムとなり、将来的な環境対策への重要なシステムとなるのです。
またフォルクスワーゲンのプラグインハイブリッド車はエンジンやトランスミッションも変更されており、エンジンにはフォルクスワーゲンが得意とする1.4Lダウンサイジングターボエンジンが組み合わされます。
またトランスミッションにはこちらもフォルクスワーゲンの得意なDSGとなり、一気に効率の高いパワートレインとなりました。
トルクコンバーターもなくなってクラッチとなったことでも燃費は改善しており、全体的に次世代のハイブリッドパワートレインの完成度が高くなっています。
フォルクスワーゲンのハイブリッド車の耐久性/故障のしやすさ
フォルクスワーゲンのハイブリッド車はあまり市場にないことから耐久性や信頼性に対しての評価が不明な点がありますが、2018年にハイブリッドシステムに関するリコールが出ており信頼性に影がかかりました。
このリコールはハイブリッドシステムの始動が出来ないという不具合によるもので、ハイブリッドの制御システムの不具合によるものです。
実際の不具合も発生しておりリコールとなりましたが、修理はプログラムの修正のみとなり機械的な部分ではありません。
制御が複雑なハイブリッド車では制御系の不具合は比較的起こりやすいものですが、始動不良は重大なものです。
また他にもハイブリッドシステムではないのですが、フォルクスワーゲンはDSGによる不具合を多発させており、特に日本市場で起こりやすい不具合となっています。
何度ものリコールを対策して信頼性は上がっているものの、基本的にDSGは日本の道路事情とあまりマッチしていない部分もあるので、比較的故障が多くなる傾向にあります。
ハイブリッド車であってもエンジンやトランスミッションに対する不具合も出ますので、耐久性の低い構造に対しては注意が必要です。
フォルクスワーゲンのハイブリッド車の評価・評判
フォルクスワーゲンのハイブリッド車に対する評価はそこまで多くありませんが、次のような意見は多く見かけられます。
“ルノーだけの問題ではなくドイツ御三家を含めた欧州車全体の弱点だが、ついこの間までハイブリッドやEVを一時的なギミックと見て軽視していた。そのくせVWのディーゼルゲイト事件や中国のNEV政策を機に内燃機関(特にディーゼル)への風当たりが強まると、手のひらを返すように一気に電動化へシフト”
— 窓際記者の独り言 (@fukutyonzoku) December 27, 2018
フォルクスワーゲンを始めとする欧州メーカーは以前はハイブリッド車をあまり重視していなかった部分はたしかにあり、日本のハイブリッド車戦略には否定的な意見も多かったです。
ですがディーゼルエンジンが厳しくなってくると電動化は必須となってきているのは確実で、日本のハイブリッド戦略というのが重要であることが証明された形になります。
また将来的にはフォルクスワーゲンも別のハイブリッド戦略を取ってきており、近年その最初の車種が発表されました。
フォルクスワーゲン・ゴルフにマイクロハイブリッド仕様が登場https://t.co/6p1p5gBlFv
フォルクスワーゲンはこのほど、1.5リッター直4ターボエンジンにモーターを組み合わせたマイクロハイブリッドパワートレイン「1.5 TSI ACT BlueMotion」を現行型のゴルフに搭載したと発表した。 pic.twitter.com/vZ2LKtBXZS— ゲットナビ編集部(公式) (@getnavi_gakken) March 31, 2018
マイクロハイブリッドとは一般的にはマイルドハイブリッドシステムと呼ばれるもので、燃費よりコストを重視したシステムとなります。
ハイブリッド車はどうしてもその価格の高さが問題となって車種展開にデメリットを持ってしまいますが、その点を改善したのがフォルクスワーゲンはマイクロハイブリッドと呼ばれています。
今後はプラグインハイブリッドと並んでフォルクスワーゲンのハイブリッド戦略の中核となるでしょう。
フォルクスワーゲンのハイブリッド車の種類・ラインナップ
フォルクスワーゲンのハイブリッド車ラインナップは現在以下の3車種のプラグインハイブリッドとなっており、前述したマイクロハイブリッドは国内へはまだ投入されていません。
車名 | 駆動方式 | エンジン | カタログ 燃費 | 最高出力 | 最大トルク | 価格 |
ゴルフ GTE | FF | CUK型 1,394cc 直列4気筒DOHC 16バルブICターボ | 19.9km/l | 150ps(110kW)/ 5,000-6,000rpm | 25.5kgf・m(250N・m)/ 1,500-3,500rpm | 4,690,000円 |
パサート GTE | FF | CUK型 1,394cc 直列4気筒DOHC 16バルブICターボ | 20.9km/l | 156ps(115kW)/ 5,000-6,000rpm | 25.5kgf・m(250N・m)/ 1,500-3,500rpm | 5,289,000円~ 5,889,000円 |
パサート GTE ヴァリアント | FF | CUK型 1,394cc 直列4気筒DOHC 16バルブICターボ | 20.9km/l | 156ps(115kW)/ 5,000-6,000rpm | 25.5kgf・m(250N・m)/ 1,500-3,500rpm | 5,489,000円~ 6,089,000円 |
これら3車種は全て同じエンジンとハイブリッドシステムを搭載しており、出力、トルクなどは全く同じです。
また燃費性能もほとんど同じで、ゴルフやパサートのような中型車クラスのハイブリッド車としては、国産車と比較すると少し低い燃費性能となります。ですがプラグインハイブリッドですので充電を繰り返せばこのスペック以上に燃費を改善することも可能です。
価格面では性能の高いハイブリッド車であるためコストもかかっており、ベース車に比べると1,000,000円近く高額になっており、フォルクスワーゲンの中型車種として考えても少し高すぎる面はあります。
フォルクスワーゲンのハイブリッド車の人気車種
フォルクスワーゲンのハイブリッド車の中で人気が高いのはやはりゴルフで、世界中の車のベンチマークとなるゴルフはベース車種からして高い性能とバランスを持ちます。
ゴルフは中型ハッチバック車ですが、このクラスでは輸入車の中でもとくに高い人気をもっており、そのプラグインハイブリッド車ということで魅力は非常に高い車といえるでしょう。
車としては走りがしっかりしており上質感があり、内装の完成度も高いので購入して損することはないでしょう。高級感のある車ではありませんが、日常での使い勝手も高く便利です。
とはいえやはりネックは価格であり、ゴルフのような車に対して5,000,000円弱という価格はなかなか手を出しにくいものです。
今後発売予定のフォルクスワーゲンのハイブリッド車
フォルクスワーゲンのハイブリッド車は今後もプラグインハイブリッドが拡充されていくと予想され、その第一弾はパサートGTEとなるようです。
パサートGTEは現在も発売中の車種ですが、欧州ではすでに改良が発表されておりEV走行可能な距離が延長されています。
現行モデルでも50km程度の走行が可能ですが、改良型は駆動用バッテリーの大型化によって70km程度まで距離が伸びるようです。この改良によってよりエンジンの作動領域を減らすことができ、燃費の改善により貢献できます。
現在発表されているのはパサートとパサートヴァリアントの2車種のみですが、ゴルフにも展開が期待できます。
またマイクロハイブリッドはゴルフに搭載される見込みですが、それとは別に欧州メーカーが積極的に採用を進めている「48Vマイクロハイブリッドシステム」も搭載される可能性もあります。
このシステムはコスト重視のハイブリッドシステムでありながら、システム電圧の上昇によって性能も向上しており、燃費性能のさらなる改善とコストのバランスが取れたシステムとして期待されています。
まだ数年はプラグインハイブリッドがフォルクスワーゲンのハイブリッドの中心となるでしょうが、将来的には何種類もの種類が出てくる可能性は高いです。
フォルクスワーゲンのハイブリッド車の理想的な運転方法・コツ
フォルクスワーゲンのプラグインハイブリッドはその充電できるという特徴を最大限に活かすことが、効率よく運転する方法となります。
ですがそれには急速充電が出来ないという点を注意しなければならず、とくに長距離運転する際などに気をつけたほうが良いでしょう。
急速充電器はバッテリーの充電を非常に短時間で完了できる装置で、電気自動車を始めとする電動車の外出時の充電方法として重要です。
ですが国内に普及している急速充電形式は欧州の規格と違っており、フォルクスワーゲンを始めとする輸入車は基本的に急速充電が出来ません。
そのため200Vの通常充電しか充電方法はなく、ショッピングセンターや高速道路上での充電は長時間が必要になります。
それでもプラグインハイブリッド車なのでエンジンが動く限りは走行を続けることができますが、もっとも効率的なEV走行ができるシーンが減るのは少しデメリットといえるでしょう。
そのため長距離を走行する場合には車にガソリンがしっかり入っていることを確かめ、EV走行が切れたあとも十分な航続距離をもたせることが重要です。