ホンダ S660は、車体中央にエンジンを搭載したミッドシップレイアウトを採用するオープンスポーツカー。
スーパースポーツカーをそのまま縮小したかようなスタイリングが与えられたS660は、まぎれもない軽自動車。
それも、世界一安価なランニングコストで乗れるスポーツカーです。
では、実際にどれほどの費用でS660を維持することができるのでしょうか。
S660の月間と年間、長期的かかる費用をライバル車と比較して、S660の維持費を検証します。
S660の月、年間の維持費
ホンダ S660を所有した場合に発生する、さまざまな維持費を月ごと、年ごとに細分化し、シミュレーションしていきます。
S660のグレード毎の維持費の違い
S660のグレードラインナップは、エントリーグレードの「α」と、上級グレードの「β」の2グレード。それぞれに6MTと、7速パドルシフトつきのCVTが用意されています。
「α」と「β」のおもな違いは、クルーズコントロールの有無と、内外装の装飾の違いであり、エンジンやトランスミッションはまったく同じであるため、グレード間での維持費差はありません。
今回は、エントリーグレードの「ホンダ S660 α MT」をサンプルとしてS660の所有するうえでかかる維持費を検証していきます。
S660の月ごとにかかる費用
S660を維持するうえで、月ごとにかかる費用をまとめると表のようになります。
種類 | 費用 |
駐車場代 | 8,000円 |
燃料代 | 3,611円 |
合計 | 11,611円 |
駐車場代
駐車場代は、平均的な8,000円を設定しています。土地代の高い都市部ではもっと高く、土地代安い郊外ではもっと低くなるので注意しましょう。
燃料代
エンジン種類 | JC08モード燃費 | 実燃費 | 走行500kmあたりの燃料代 |
MT | 21.2km/L | 18.0km/L | 3,611円 |
CVT | 24.2km/L | 17.0km/L | 3,421円 |
S660 MTモデルのカタログ燃費は、JC08モード燃費で21.2km/L。実燃費は18.0km/Lです。
実燃費18.0km/LのS660で、仮に走行距離を月500km(=年6,000km)、ガソリン代を130円/Lとすると、3,611円と算出できます。
通勤やレジャーなどで頻繁に使ったりして走行距離が多ければ、当然その分費用は増えることになります。走行距離が100km増えるごとに維持費はおよそ722円増えると考えましょう。
S660の1年ごとにかかる費用
次に1年間にかかる費用を解説します。
種類 | 費用 |
自動車税/軽自動車税 | 10,800円 |
任意保険料 | 60,000円 |
消耗品代 | 6,000円 |
合計 | 76,800円 |
自動車税
排気量が660ccの軽自動車であるホンダ S660の自動車税は年間10,800円です。S660は全グレードがグリーン税制対象外であるため、減税措置をうけることはできません。
任意保険料
万が一の事故に備えるための保険として、保険会社と契約する「任意保険料」は、月5,000円として年間60,000円ほどになります。
ただし、任意保険は車種やドライバーの年齢などの条件や加入する保険会社によって、金額が最大数万円ほど変わります。他の費用以上に個人差が大きいので、年60,000円の金額はあくまでも目安程度にお考えください。
また、ここでは任意保険を「年ごとにかかる費用」としていますが、月払いなど他の支払い方法もあることが多いです。
消耗品代
エンジンオイルやオイルフィルターなどのメンテナンス費用である「消耗品代」として年6,000円程度がかかります。
S660の数年ごとにかかる費用
新車購入の場合は3年、それ以降は2年毎実施される車検の費用をまとめました。
種類 | 費用 |
自動車重量税 | 車検ごと6,600円(新車購入時は3年分12,500) |
自賠責保険料 | 車検ごと約25,000円(新車購入時は3年分約34,800円) |
車検基本料 | 車検ごと36,000円 |
12ヶ月点検費用 | 車検から1年ごと5,000円 |
合計 | 72,600円 |
自動車重量税
自動車重量税は、自動車の重量に応じて税率が適合する制度です。軽自動車であるホンダ S660にかかる重量税は、車検ごとに6,600円。
S660は全グレードがエコカー減税対象外であるため、本則税率に基づいた金額になります。
自賠責保険料
交通事故時の被害者を補償する目的で徴収されるのが自賠責保険料。自動車重量税とともに車検時に納めることになります。
S660に限らず、軽自動車で自家用に使用される場合の保険料は、翌2年間分で約25,000円。車購入時は次の車検までの3年分でやく34,800円です。
車検基本料
車検基本料とは、車検ごとの法定点検費用と印紙代と車検代行代を足したものとし、S660の場合は2年分/36,000円ほどかかります。
ただし、車検費用はディーラーやカー用品店など業者の選び方によって、数万円ほど変わることがあります。
また車検の検査結果によっては部品交換や整備が必要となり、さらに数万円ほどかかるケースもあるので、36,000円の金額は目安としてお考えください。
12ヶ月点検費用
法定12ヶ月点検は車検と違い、義務ではありませんが、車を大切に乗りたいのであれば実施をおすすめします。費用はおよそ5,000円。もし交換しなければいけない部品があった場合には、部品代が加算されます。
また、整備記録として実施をしておくことで、リセールバリューの査定にプラスに働きます。
S660の月ごと、年ごとの維持費平均
ホンダ S660の維持費を月ごと、年ごとの表にまとめました。これにより一定期間内における平均的な維持費がわかります。
月ごとの維持費
S660を維持するために数年サイクルでかかる費用を、ひと月あたりに換算した表です。
種類 | 費用 |
駐車場代 | 8,000円 |
燃料代 | 3,611円 |
自動車税/軽自動車税 | 900円 |
任意保険料 | 5,000円 |
消耗品代 | 500円 |
自動車重量税 | 275円 |
自賠責保険料 | 1,042円 |
車検基本料 | 1,500円 |
12ヶ月点検費用 | 417円 |
合計 | 21,244円 |
年ごとの維持費
S660を維持するために数年サイクルでかかる費用を、1年あたりに換算した表です。
種類 | 費用 |
駐車場代 | 96,000円 |
燃料代 | 43,333円 |
自動車税/軽自動車税 | 10,800円 |
任意保険料 | 60,000円 |
消耗品代 | 6,000円 |
自動車重量税 | 6,000円 |
自賠責保険料 | 3,300円 |
車検基本料 | 12,500円 |
12ヶ月点検費用 | 5,000円 |
合計 | 254,933円 |
S660のその他の費用
基本的な維持費に加え、他にも車に乗るうえでかかる費用をまとめました。
タイヤ代
S660の標準タイヤサイズは前輪が165/55 R15で後輪が195/45R16。一般的なコンフォートタイヤ1本あたりの価格は、前輪が4,000〜10,000円。後輪が7,000〜15,000円と安価です。
ただし、純正タイヤは高価なハイグリップタイヤのネオバ AD08Rを装着します。純正と同等の性能を維持するのであれば前輪1本あたり20,000円、後輪は30,000円もの費用がかかります。
ミッドシップレイアウトとはいえ、軽自動車であるS660にハイグリップタイヤはややオーバースペック。
しっかりとした電子姿勢制御装置により、コンフォートタイヤでも問題なく走行することができます。タイヤの銘柄よりも摩耗状態をしっかりとチェックするほうが大切です。
ローン金利
ローンで車を購入した場合は、車両価格に加えて金利がかかります。また、どこから借りるかでも金利は大きく変わってくるため、慎重に選びたいところです。
参考までに、「S660 α MT」の車両本体価格198万円をローンで支払う場合の金利費用をまとめました。
借入先 | 金利 | 費用 |
ディーラーローン | 年 5%~7% | 99,000〜138,600円 |
銀行 | 年 2%〜4% | 39,600〜79,200円 |
信販会社 | 年 1.9%~8.4% | 37,620〜166,320円 |
高速料金
軽自動車でも高速道路は問題なく走行することができます。交通料金は、普通車の料金にの8割で済むため、この点でも財布にやさしいのが軽自動車のメリットです。
一例をあげると、静岡県・御殿場ICから愛知県・豊田東ICまでの208kmの交通料金は、新東名高速道路経由で3,990円。ちなみに普通車では4,950円かかります。
軽自動車の高速道路交通料金は、100kmあたり2,000円前後と覚えておけば、利用の際の目安になるでしょう。
修理代・部品交換代
エンジンオイルなどの消耗品は5,000〜10,000km毎の比較的短いスパンで交換が必要ですが、エアクリーナーやブレーキパッド、ブレーキフルードやバッテリーなどの油脂類は、50,000km以上の長いスパンで交換されるため、法定点検時にしっかりと点検・メンテナンスを受けることが大切です。
また、メーカー側の不具合であれば無償で修理をしてくれる場合がありあますが、自身の過失での故障や消耗品の交換費用は自身で負担しなければいけません。
消耗品にかかる費用の一例を表にまとめました。
費用項目 | 費用(部品代+工賃) |
エアクリーナー | 3,000円~ |
ブレーキパッド | 20,000円~ |
ブレーキフルード | 5,000円~ |
補機バッテリー | 15,000円~ |
ワイパーブレード | 4,000円~ |
S660の維持費に関する注意点
ここでは劣化しやすい部品や故障しやすい箇所など、車種特有の特別な維持費について解説します。
S660の発売当初の不具合は、「アイドリングストップの不具合」「カーニバルイエローの塗装の不備」「センサーの異常によるメーターの誤作動」。
以上3点がもっとも多い不具合であり、すでにホンダはリコールにて対応済みです。これから購入する場合は大きな問題は発生しないでしょう。
ロールトップの劣化
S660はオープンカーとはいえ、フルオープンではなく屋根上部だけが脱着できるタルガトップを採用します。トップ部分は、耐候性をもたせた布製幌であり、くるくるとコンパクトに丸めて収納できるようになっているため、女性でも簡単に脱着できる仕組みになっています。
しかし、布製幌は経年劣化しやすい部品です。3〜5年の耐久性は持っていますが、長期の紫外線や酸性雨にさらされることで変色や硬化がはじまると、亀裂を起こし雨漏りの原因となるため、劣化の度合いに応じて補修や交換が必要になります。また、イタズラにより幌が切り裂かれる可能性もあります。
小さな穴程度ならば市販の補修キットで修理することができますが、経年により劣化が進んだものは交換するしかありません。補修キットは5,000円程度。純正ロールトップの価格は約13万円と非常に高価です。
出先での脱着はできなくなりますが、FRP製のハードトップに交換することで、劣化の問題はすべて解消することができます。
ホンダのスポーツパーツブランド「無限」のハードトップの価格は、税込24万6,4400円。長く乗るのであれば検討したいパーツです。
エンジン・トランスミッションの耐久性
近年のエンジンやトランスミッションは、必要十分な耐久性だけを確保して、小型軽量化と効率化を推し進めています。
S660のエンジンは、タービンの仕様が異なるものの、N-BOXなど共通の実用エンジンが搭載されてるため、スポーツユニットとしての耐久性にはやや不安が残ります。
S660のエンジンオイル量は2.6L、MTのトランスミッションオイルは1.3Lであり、これは軽自動車の基準でも少ないほうです。
オイルは冷却の役割も受け持つため、高回転を常用するサーキット走行では発熱に対して冷却が追いつかず、エンジンやトランスミッションにダメージを与えかねません。
一般道や高速道路、ワインディングロードまでなら問題はありませんが、本格的なサーキット走行をするには、オイルクーラーを装着するなどの対策が必要になるでしょう。
高回転高負荷をかけた後は、すぐにエンジンを停止せずに、回転数を抑えて一定速で走行する「クーリング走行」を実施することをおすすめします。
車体後方にエンジンルームがあるS660は、熱がこもりやすいため、入念なクーリング走行をおこない、各部を適正温度まで下げることで各パーツの熱による劣化を抑えることができます。
S660の旧型(中古)の維持費
S660を中古車で購入した場合の維持費を現行型と比較して解説します。
S660は、車名は異なるものの、ホンダ ビートの実質的な後継車といえるでしょう。1991年に登場したホンダ ビートは、S660と同じくミッドシップレイアウトを採用するフルオープンのスポーツカーです。
当時の軽スポーツカーとして絶大な人気を誇った、マツダ(オートザム) AZ-1、ホンダ ビート、スズキ カプチーノの3台の頭文字をとって「平成ABCトリオ」と呼ばれました。
最終モデルでも20年以上経つビートの維持費は、自動車税は13年経過による重課税により年間12,900円。重量税は18年重課により8800円が車検ごとにかかります。実燃費は意外に良好な16km/L。ホンダ ビートを維持するにはS660よりも約10%ほど高い維持費がかかります。
ホンダ ビートは現在でも人気があるため、年式の割には価格は高めです。走行距離20万kmに達するような個体でも50万円ほど。状態のよいものは100万〜150万の価格がつけられています。
それに加えて古い車であるため、ボディの錆や塗装、機関部の劣化により莫大な修繕費用がかかるでしょう。購入したら最初に交換したい幌の交換費用は約60,000円です。
完全な趣味として乗るのであればホンダ ビートはおすすめできますが、通勤・通学などの移動にも使うのであれば信頼性が高く、維持費が安いS660をおすすめします。
S660の維持費を他の車と比較
ホンダ S660と同価格帯の3車種を挙げ、1年ごとの維持費を比べてみます。
ダイハツ コペン
種類 | 費用 |
駐車場代 | 96,000円 |
燃料代 | 43,333円 |
自動車税/軽自動車税 | 10,800円 |
任意保険料 | 60,000円 |
消耗品代 | 6,000円 |
自動車重量税 | 3,300円 |
自賠責保険料 | 12,535円 |
車検基本料 | 18,000円 |
12ヶ月点検費用 | 5,000円 |
合計 | 254,933円 |
2014年に登場した2代目ダイハツ コペンは前輪駆動を採用するフルオープン2シーター。フレームのみで車体剛性を確保したことで、「ローブ」「エクスプレイ」「セロ」の3種の樹脂製ボディをコンバージョンできるのが特徴です。
軽自動車は自動車税と重量税が一律であるため、基本的な維持費はS660と同じ。実燃費もS660と同じく18km/Lを発揮します。
コペンの660ccターボエンジンは低負荷時の燃料消費を大きく低減するアトキンソンサイクルを採用するため、一定巡航が続く道路ではコペンのほうが燃費がよくなる傾向にあります。
前輪駆動でフルオープンのコペンは、スポーツカーというよりはラクジュアリーカーといった印象。それに対して、S660はレーシングカーのようなミッドシップレイアウトを採用するスポーツカーです。ワインディングロードを走るのならS660のほうがより刺激的なドライビングが楽しめます。
スズキ アルトワークス
種類 | 費用 |
駐車場代 | 96,000円 |
燃料代 | 41,053円 |
自動車税/軽自動車税 | 10,800円 |
任意保険料 | 60,000円 |
消耗品代 | 6,000円 |
自動車重量税 | 3,300円 |
自賠責保険料 | 12,500円 |
車検基本料 | 18,000円 |
12ヶ月点検費用 | 5,000円 |
合計 | 252,653円 |
8代目スズキ アルトのモデルチェンジから1年遅れで登場したのが、通算5代目となるスポーツモデルのアルトワークス。S660よりもおよそ100kg軽いボディに、高出力ターボエンジンを搭載するホットハッチモデルです。
S660と同じく660ccターボエンジンを搭載し、5速MTと自動変速MTの5ASGを搭載。軽量ボディの恩恵でFFモデルの実燃費は19km/L、4WDモデルは18km/LとS660より優秀です。
総維持費はS660とほぼ同等ですが、4人乗りであるため、乗員1人あたりのランニングコストはS660より上です。
実用的とスポーツ性能を両立するならアルトワークスがおすすめです。一切の実用性を無視してでも、スポーツドライビングを楽しみたいのであればミッドシップオープン2シーターのS660をおすすめします。
マツダ ロードスター
種類 | 費用 |
駐車場代 | 96,000円 |
燃料代 | 52,500円 |
自動車税/軽自動車税 | 34,500円 |
任意保険料 | 84,000円 |
消耗品代 | 6,000円 |
自動車重量税 | 8,200円 |
自賠責保険料 | 13,000円 |
車検基本料 | 25,000円 |
12ヶ月点検費用 | 5,000円 |
合計 | 324,200円 |
マツダ ロードスターは、オープンボディの2シーター。4代目となったロードスターは、引き続きフロントエンジン・リアドライブを採用するも1.5Lエンジンを搭載することで歴代モデルよりも維持費が安価になりました。
とはいえ普通車であるため、維持費はS660よりも年間約7万円ほど高くなります。実燃費も13.5km/Lまで改善されてはいるものの、ハイオクガソリン指定のため、走行距離が伸びるほどS660との維持費差は広がります。
少々高い維持費を支払ってでも卓越したスポーツドライビングを堪能したいのならロードスターをおすすめしますが、ドライビングの楽しさに対するコストパフォーマンスでは、軽スポーツカーであるS660のほうが上です。
S660は世界一安価なスポーツカー
レーシングカーがMR(ミッドシップレイアウト)を採用するのは、速く走るために必要だからです。
車を構成する部品のなかでもっとも重いエンジンを車体中心近くに配置することで、旋回性能の上限を高めることができます。
軽自動車とはいえ、MRを採用するS660もその例にもれず、高いコーナリング性能を発揮します。一般の車より高い速度でも軽やかに鼻先の向きを変え、アクセルを踏み込めば、エンジンの重さが後輪にのしかかり、いち早く加速態勢に移れるのがMRのスポーツドライビング。
しかし、もれなく2人乗りとなってしまうMRに実用性は皆無。そのため、MRを採用する車は現在では高額なスーパースポーツカーのみであり、所有するには莫大な費用がかかります。
それに対してS660は軽自動車であるため、車両価格、維持費ともに安価。それでいてMRならではのスポーツドライビングをしっかりと楽しめる、世界一ランニングコストの安いミッドシップ・スポーツカーです。
S660の安価な価格は、経済負担にならないため、収入の低い新社会人や大学生でも楽に維持ができます。
MR特有の扱いの難しさは、電子制御でコントロールされているため、免許取り取り立てのドライバーでも安心して乗りこなすことができるでしょう。